本

『地震に強い収納のきほん』

ホンとの本

『地震に強い収納のきほん』
松永りえ
扶桑社
\1600+
2025.8.

 プロフィールに、「熊本在住の防災収納インストラクター」という肩書きが載せられている。熊本で大きな地震が起こったのは2016年のこと。福岡に住む私も、授業中にその大きな揺れに遭遇した。もちろん、現地熊本の揺れはそれどころではなかった。市街地も被害があったが、民家の並ぶ益城町の被害は大変なもので、その後幾度か現地を訪問することとなった。
 ひょっとしたらその熊本地震がきっかけであるのか、と思ったら、案の定そうだった。著者は、そこから防災について学び始め、各地で講演を行うなどに至り、2025年に本書を発行することとなったのだそうである。
 とくにその「収納」という方面に特化したものが珍しいと私は思った。いろいろ地震対策についての注意喚起はあるけれども、収納については大抵さらりと「こういう点への配慮も大切ですね」と終わってしまう印象がある。だが本書は、そこに逃げ場をつくらない。徹底的に、「収納」にこだわるのだ。
 ただ口先で、これこれを用意しましょう、と説明するだけなら、言ってみれば誰でもできる。だが本書は、なんとしてでも地震に対して生き延びることを第一として、何を備えておくのかをとことん語り、それを写真で示す。このようにするのだ、と。
 そう、何事も具体的であることが大切なのだ。ごちゃごちゃ言葉を多くして説明するよりは、百聞は一見にしかずであって、しかも本物の写真が、一目で何をすればよいのかを伝えてくれる。それは、いわゆる「防災用品」として出回っているものを含めて、一つひとつばらばらにしてまでも並べて分からせてくれるし、押し入れだの棚だの、このように収納するという見本を、確実に知らせてくれる。
 また、その配慮も唸らせるものが多く、夜寝るときにも横にスリッパを置いておく、というような習慣の中で実行できること、しかも地震が起こったときにはその効果が抜群に高いこと、それを教育してくれるのだ。
 それは、普段の「片づけ」ということにも関わる。すると私などは完全に失格なのだが、そう言われることは覚悟の上で、本書の指摘について、わずかだがご紹介しよう。
 片付けの目的は「安全」だ、とまず厳しく告げる。マーカーまでつけた印刷となって、読者の目に飛び込んでくる。もちろん救援はあるだろう。だが、7割方は、自助次第なのだ、という調査も紹介し、動機を求める。「家の状態が生死を分け、備蓄の有無で被災生活が大きく変わる」と、幾らか脅すかのようにして、これから語ることの重要さを植え付けてゆくのだ。
 物品のストックも、その量や置き方などを指南する。物によっては、大量に置いておくことが難しいものもある。そのようなときには、「ローリングストック」といって、備蓄したものを生活で使ってゆき、減ったらまた補充する、というような、無理のない溜め方をすることも提言する。
 そもそも、「物が落ちるかもしれない」ということを前提として、収納することが肝腎なのだ。「まさかそんなことは起こるまい」とか「このくらいなんとかなる」とかいう心理を排除して、「もしかするとこうなるかもしれない」という発想で、物に対処するべきだ、と教えてくれる。
 抽象的なことを並べている本ではない。キッチンに於ける危険性をも考慮するなら、刃物はもちろん、鍋なども自由に飛ぶような置き方をするべきではない。器が割れたら怪我は必定である。同じ形の食器を重ねることや、その置く場所についても、細かい説明がなされる。
 リビングでは植木鉢をガラスのそばに置かないというふうに、当然かもしれないがふだんあまり気にする人が多くないことも、ずばりと指摘する。テレビの置き方にも知恵がある。
 防災グッズはどこに置くのか。ぜんぶまとめて置くと、そこがやられたときに全部無駄になる。分散せよというが、さて、そこまで考えている人々がどのくらいいただろう。私は皆無なので反省しきりである。
 とくに、浴室やトイレでは、ドアが開かなくなり密室となる。そこから助けが呼べるように、ホイッスルなどを置いておくなど、一体誰がそこまで考えていただろう。だが、この熊本地震のとき、ある教会員の方が、実際浴室に閉じ込められていたケースがある。救助がくるまで、タオルで首筋や脇を冷やさないようにしていたという知恵を持ち合わせていたために生き延びたが、全く知識がなかったら危なかったかもしれない。
 避難所でも、物流が一週間止まったときに本当に困るのは何か、体験者ならではくの指摘が終わりの方に書かれていて、目を開かされる。ペットのこと、サニタリーに関すること、そうした、いざというときに困ることが細かく挙げられていて、ありがたい。また、巻末には、チェックリストが作られていて、これこれはあるか、これこれに気を払っているか、チェックさせてくれる。本書を読んで何かしようと思った人は、さしあたりこれに従って準備を進めればよいようになっている。
 確かに、本書にあることを「すべて」実行することは難しいだろう。だが、気づかされたことから順に、小さなことでも直してゆくことは、誰にでもできる。その小さなことから備えてゆくことが大切であろう。日々小さなことを、するかしないか、で、やがていつか来るかもしれない日のためには、えらく大きな違いとなってしまうことだろうと思う。
 おや、それはもしかすると、信仰生活のことではないか、という気が急にしてきたのは、私だけだろうか。




Takapan
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