本

『自殺という病』

ホンとの本

『自殺という病』
佐々木信幸
秀和システム
\1575
2007.4

 毎年3万人を数えるという、自殺者。いや、統計のことだから、実際はもっと多いことだろう。まだ若い精神科医だが、アメリカで活躍し、インターネットも十分活用して、社会に多くの貢献をしている。実に分かりやすく、また、落ち着いた文章である。自殺の現状や背景について、一般人である私のような者に、一読で理解できるように語られている。文章がひじょうに上手な方である。
 主張することは、タイトルにもあるように、自殺は病気である、という認識である。これは、最近のアメリカでは常識なのだという。いわば、勤務地での常識を日本にも伝えようということなのかもしれないが、本当に患者のことを理解し、助けようという姿勢で貫かれている。それは、冒頭に、自分の失敗例から記されている誠実さからもうかがえる。こういう著者は、たいていよい本を書いている。
 自殺へ至るケースでは、認知障害が起こっているという。これを「必ず」と言い切っている。そこに焦点を当てることで、対策を考えやすくしているのである。もちろん人間相手であるから、千差万別という面もあるだろう。しかし、自殺を病であると認識していることにより、○○病にはこういう対策が有効、という他の病気と同じように、一定の対応が役立つというプランを試すことが可能になる。
 この自殺という病気だが、よく間違うことに、「心の病」というものがある。しかし、著者はそれをきっぱり否定する。そのようなものは事態を危うくさせるもので、「神経の病気」という認識が必要なのだという。
 人の心を救うものは、心が病気ですよ、と告げることではなくて、心ではなくからだの病気なのです、として対策を立てていくことだ、というのであろうか。すると、判断する自己そのものが病気であるという、救いようのない事態を免れることができる。つまり、私という自己が、私を危うくする病気に打ち克つように向かうことができる、ということである。
 この考え方は、たしかに人を救う力があるように思える。
 冷静な統計やデータ、理論を重ねて綴られたこの本は、小さなノウハウ本のように見えるかもしれないが、なかなかどうして、人の心の問題を的確に見抜いているように思われてならない。




Takapan
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