本

『人生の実力』

ホンとの本

『人生の実力』
柏木哲夫
幻冬舎
\1365
2006.6

 幻冬舎にしては、地味な本である。図版は、あまり有効とは言えないグラフめいた説明が一カ所。表紙の素朴なイラストは、裏にも中扉にも流用されている。あとは、すべて文字。しかも、目にやさしい大きい文字。
 著者は、日本のホスピスを創ったと言ってもよい人、淀川キリスト教病院のホスピスを築いたクリスチャンである。
 末期医療で2500人を看取ってきたということから、まとめあげた書き下ろしである。具体的なエピソードを膨らませるようなことはせず、そこから学んだ知恵とでもいうべきものを、まとめあげた本である。私たちは、その一言の陰に数千の命の叫びの重みを知る。
 いや、それはかけがえのない、自分自身の命である。誰も死から逃れることはできないがゆえに。たとえ、あと半年の命ですと宣告された癌患者であっても、私と何の違いもない、という自覚は可能である。
 ターミナルケアは、医療の現場が行うものとは限らない。家族の一人が宣告されたとき、家族の一員として、どうすればよいだろうか。そんな知恵も、この本の中にはあふれている。
 宝物が、たくさん詰まった本である。この本を切実に必要とする人のために、字が大きく配置されているのかもしれないが、若者であろうが、命について真剣に考えたい人は、どなたでもお読み戴きたい。必ずしもキリスト教の勧めとなっているわけではないので、本当に、どなたでも。
 テストに、実力問題というのがある。習ったものそのものが出なくても、そこから考えて初めて出会う問題にも挑戦していくというものである。人生の実力というタイトルは、私たちにとって「死」が、それに比較しうるものであることを思い出させる。
 真に生きる力のある人は、死ぬことに対しても力があるということなのである。




Takapan
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