本

『とことんおいしい自家製生活。』

ホンとの本

『とことんおいしい自家製生活。』
永井良史
イラスト・いしざわあい
海と月社
\1260
2005.8

 砂糖はたとえば、さとうきびからできる。塩は海水の水分を蒸発させれば採れる。マヨネーズは、酢と卵黄とサラダ油からできている。
 私たちは、それなりに、作り方や成分を知っていることがある。しかし、ほとんど誰も、自分の家でそれを作ろうとは思わない。世の調味料には添加物が云々、発ガン物質が云々などと取り沙汰されても、しかもそれは安い大量生産のものに含まれているなどと耳にしたとしても、私たちはたいていの場合、依然としてスーパーで目玉商品のそれらを買ってきてしまう。
 どだい、各自が作ってなどいたら、能率が悪いことはこの上ない。だから人間は、分業とうことで、それぞれが得意なものを生産し、交換経済が成立するようになったのだ――私たちは、社会というものについて、しばしばそのように習う。とすれば、自家製生活など、愚の骨頂ではないのか。
 そこには、確かに安全志向がある。また、ものによっては安くできる効果もある。しかし著者は最初に、軽い口調で、こんなふうに書いている。《それに、自分が食べているものを「あー、これって こうやって作るのかぁ」と わかるっていうのは、なんともいえず、うれしいものです。》
 この本では、ベーコンから辛子明太子、するめやゆば、紅ショウガからバター、せんべいなどと展開する。タバスコなんか、やってみたい気がすぐに起こる。
 物事の仕組み、成り立ち。私たちは、それらを気にせず、すべて出来合いのものを受け取ることに慣れてしまっている。物だけならまだよいのかもしれないが、おそらくそれは、「考え方」にまで及んでいるのではないか。人の思想をそのまま受け容れる。自分で考えようとしない。思考力が死滅しようとしている。つまり、頭数が必要な政治の中で、私たちの思考は乗っ取られ、ただ数として利用されているのかもしれない。
 著者は、もちろんそんなところを意図して紹介しているのではないはずだ。けれども、自分で考えて自分の感覚で、自分と等身大のところで生活を見つめていくということに、そんな反省をさせられてならなかった。
 著者は、本来料理の世界などとは関係のない人。阪神淡路大震災に遭遇して、自分で食糧を調達するように情報を集め始めたのがきっかけだという。




Takapan
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