本

『日本を意識する』

ホンとの本

『日本を意識する』
齋藤希史編
講談社選書メチエ327
\1785
2005.4

 東京大学の教養学部において2004年度に開かれたテーマ講義「ジャパン・コンシャス?――日本を意識するとき」をもとにして、そのエッセンスがまとめられた本である。
 分野は多岐に渡るが、文学と比較文化が中心となっている。
 視点がはっきりしているのがいい。「日本を意識する」というのは、良い問いである。得てして、良い問いが立てられるとき、すでに研究の成果というものが予想されている。問いの中にある程度の答えの方向性が見出されていることにもなるし、なにしろ問いそのものに魅力がある。
 日本とは何か、日本では、そういった言葉の発端は、この日本においては異常に多い。では、どうしてそうした言い方をするのだろうか。そもそも日本人は、日本をどのように意識しているのだろうか。
 あるものを意識するということは、そのあるもの以外の「他」を意識したことによって触発される態度であろう。その意味で、比較文学や比較文化の専門家が、ここで日頃の研究の成果を活かして、日本を、あるいは自己を意識することの分析を行う。
 冒頭の、キリスト教がゲルマンやケルトの文化を融合していくこととの出会いは、たんなる机上の論理に留まらない調査を感じさせ、面白く読んだ。肝腎の日本についてがいやに簡単な叙述になってしまったのは誌面の都合上仕方のないことだろうが、続く日本の文字についての考察など、ふだん表立って議論されない事柄に触れてあり、興味深く読むことができたことは間違いない。
 学問的正確さを期そうとすれば、叙述はしばしば曖昧にもなり、慎重な但し書きが煩瑣になってゆく。大胆な仮説を掲げるといった面白みには欠けるのだが、「日本」の呼称の問題や文学に見られる女性の姿など、断片的に見るだけでも、興味深い部分を見つけることができるだろう。
 大学での講義がこうして世にオープンにされてゆくことに、意義を感じるものである。




Takapan
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