本

『イスラームとは何か』

ホンとの本

『イスラームとは何か』
後藤明・山内昌之編
新書館
\1,800
2003.8

 イスラムについて知りたい。そんな声が高まっている。それはそれでよいことだ。多分に、単なる興味本位ではない。同時多発テロ以来、イスラムとの争いは、まったくの他人事ではなくなったという意識がある。学校で習いもしなかった、このイスラムという一大勢力について、自分は何も知らないでいた。それゆえ、この薄気味悪い敵たちについて、いくらかでも知っておかなくてはなるまい……そんな気持ちからであるにせよ、イスラムのことを学ぼうとする気持ちは、きっと悪くない。
 それくらい、教育の場からイスラムは閉ざされている。西欧文明を受け入れてきた日本の教育の現場には、イスラムはまったく寄せつけられない。それは、イスラムと無関係に生きてこれたという事情もあるのだろうが、危険も伴う考えである。いうなれば、アメリカとイラクが争えば、私たちは何の思索もなしに、アメリカの味方の一人としてしか、ものを見ることができないからである。
 日本が、せめて憲法前文で宣言しているように、国際社会の中での平和維持のための役割を果たそうとするなら、イスラムを避けて通ることはできない。なのに、一方的に、イスラムを敵に回す立場に立たなければならない道理が、どこにあるだろうか。
 情報が少ないとの声もある。イスラムの声がすんなり情報として入ってこないというのだ。それでますます親しみやすさから遠のき、かくして憶測に富んだデマを含む噂が、まことしやかに語られたりする。
 この本は、さまざまなテーマにおいて、イスラムの考え方や習慣などを、見開き2ページ単位でまとめたものである。筆者も項目ごとにさまざま違う。あらゆる誤解を解くために、有効活用することができると信じる。
 実は、本を借りられる期間中、全部を読むことができなかった。それくらい、情報量が多かった。また、一つ一つのことをじっくり味わって識るようにしなければならなかった。図解もないし、箇条書きにしてあるわけでもない。右下の小さな写真だけでは、さして視覚的に見やすく工夫してあるともいえない。ひたすら文章で説明する。それは、最近のハウツー本の常識からすれば、不親切極まりない構成である。だが、図や写真では表現できない背後の事態が、言葉であるゆえに伝わってくるということがある。  特に私は、「パレスチナ問題」の項で、学んだことがある。「問題の起源は、十九世紀末からのヨーロッパのユダヤ人の、当時はオスマン帝国の支配下にあったパレスチナへの流入にある」とあり、パレスチナ問題を二千年前に遡ることも、イスラエル国建設によってと考えることも、正しい理解ではない、と指摘されていた。極めて現実的な指摘であるが、一方、その捉え方次第では別の政治的判断もなされうるため、私たちがパレスチナ問題の平和を考えるときに、どこに起源を置くかという重要なポイントをここで見せてもらったような気がする。いずれにしても、この項の最後にあるように、「パレスチナ問題は宗教問題ではない」という言葉は重い。パレスチナの争いを一神教の問題だと勘違いしている、日本の左右両派の新聞社の執筆者は、こういう現実をきちんと見つめて思考し直して戴きたい。




Takapan
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