本

『医療はどこへ向かうのか』

ホンとの本

『医療はどこへ向かうのか』
水野肇
草思社
\1680
2006.7

 ジャーナリストから見た、医療現場と、その未来。素人ではなかなか理解しづらい医療の姿を教えてくれる。
 サブタイトルは「人間にとっての医学の意味を問い直す」とある。
 ジャーナリストとは言っても、経験豊富で、過去の医療における有識者の一人として、様々な場面に関わってきたという人である。長年医療を見つめつづけ、しばしば政治的に認めてもらえずとも、分かる人には分かるという政策を提案し続けてきた人だという。
 そもそも医学によって人類は幸福になったのだろうか、という問いから、この本は始まる。さらに、大きな要因としての、糖尿病について考察する。
 ことさらに複雑な数理科学の知識を必要とするものではない。むしろ、若い人にも読みやすいものと心得て編集された本である。社会における医療、これから私たちが迎える時代の医療のもつ意味を、問い直す。
 医療が、誰でも再生可能とする科学らしくなってきている。科学ならば、名人というものは存在しない。普遍的な結果が出るからだ。こうしていわゆる「名医」がいなくなった、とこの本は寂しがる。ただ、それで悲しんでそれで終わりというのも芸がない。この時代の変遷を意識しているのといないのとでは、大きく今後の考え方や歩みが違ってくるものであろう。
 政治的にも様々な提言を行ってきた経験のある著書だからこそ、ときおり、過去の政策についての問題点も指摘する。たしかに、医療技術的な点についての経験があるわけではないために、当事者としての医師から見てどう感じるかということは、さしあたり未定である。その意味で、この本を医師がどう読むか、ということは気になる。評論家の把握は、広い視野でなされているだろうが、当事者の感じ方とはまた違うことが考えられるからである。
 特に薬についての報告は、具体的で分かりやすい。ジャーナリストたるもの、事実を重ねて検証していくという姿勢が重要なのだ。この素材を前にして、私たちも、考えてみよう。




Takapan
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