本

『色のとりせつ』

ホンとの本

『色のとりせつ』
鈴木千惠子
誠文堂新光社
\2310
1998.3

 少し以前の出版だが、図書館に入ってきたのは最近なので、発行から6年後に初めて見た本である。
 なんと夢があり、心を豊かにしてくれる本だろうか、と思った。
 カラーコーディネートという仕事があることは知っていたが、色彩について、あらゆる角度から調べ、研究し、生活や商業活動に利用する世界がこんなにも広いということには、改めて驚きを感じた。
 中学校の美術の教科書には、こういう色彩についての基本的な部分が記されており、期末テストの前に慌てて覚えて「分からん」とぼやいている中学生をよく見る。ただ文字だけを綴る作家ならば、あまり色についての造詣が深い必要はないかもしれないが、様々なクリエイターは、もはや色についての理解は欠かせない。
 実際、このWebそのものが、色の世界なのである。
 私も気をつけなければならないのだが、読みにくい背景に読みにくい色の文字というサイトがある。淡い色の背景に、淡い色でしか書き込めないBBSもある。思わずその文字列を選択して、読みやすく替えるということも行ってしまう。
 そういえば、Webデザインとして色彩だけを紹介した本があった。この場合、印刷の色と光としての色とでは微妙に違うため、なかなか本としての著述には難しい面があるだろうと思うが、それはそれで大変参考になった。
 内容のよいものがあるにしても、ただそこにあるだけでは人目に留まらない。道行く人にも、そこへ目が向かうような「仕掛け」は工夫すべきである。そのための知恵がここには沢山ある。私もポスターをいろいろ手がけたことがあるので、その点はよく分かる。そのくせ、印刷費用の問題から、つねに白地の中に色を落としていくよりほかなかったところが、少し悲しい。
 この本には、出かけて行くときの服の色についてのアドバイスもふんだんになされているので、理屈っぽいことがお嫌いな方も、興味をもつことができるように配慮されている。
 ただ、この本の趣旨上、ここまで言うのは無理があるかと思うが、この「色」というものの個人差についての叙述は、殆どなされていなかったように思う。すべてが客観的に定まった色として説明されているように感じたが、もしかすると私が一部とばし読みをしたために、そう誤解しているのかもしれない。
 私の身内には色弱の部類に入る人がいる。今でこそ学校での色覚検査もなくなったが、そうなると自分が色覚異常(言葉が悪いですね、色覚について少数者であるだけなんですが)であることに気づかないで大人になっているというケースも多々起こりうると思われる。しかしWebでもそうした人に見えにくい組み合わせがあるという問題もあるし、いまだに門が閉ざされている職業が多くあるという社会的問題も含めて、色をどう感じるか、その人たちに見えやすい色彩はどうすればよいのか、ということは、もっと多くの人に気にされてよい問題ではないだろうか。よく言われるのは、地下鉄などの経路図が、ただ色だけで路線を区別しているのは、たいへん見にくいのである。
 こうした弱者のための「色のとりせつ」も次に期待したいと思う。




Takapan
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