本

『いぬのきもち』

ホンとの本

『いぬのきもち』
高倉はるか
幻冬舎
\1,200
2003.6

 犬は序列を重んじる。ゆえに、人間が犬の機嫌をとろうと努力するとき、犬の方では、人間を自分より下だと位置づけるようになる。頭を撫でられて喜んでいるのではなく、頭を撫で「させて」やっているのだ。こうして人間を下位においた犬は、自分の要求が実現しないと苛立ち、人間に噛むという仕方で報復する。
 実に犬を愛し、犬の考え方を説き明かすことに成功した本である。私もかつて家に犬がいたから、書いてあることはよく分かる。とはいっても、ブリーダー級の飼い方ではなく、ひたすら番犬ならびに残飯処理として飼っていたような感じだから、私自身、犬を散歩に連れて行くというようなことをしたためしがない。きっと姉がしていたのだろう。
 この本は、必ずしも秩序だって記されたわけでもないし、ノウハウを効率的に説明しているわけでもない(具体的なノウハウも実はちゃんと説明されているのだが、そう整理されてた記述ではないように見える)。いわばエッセイの集まりとして、短い章が集められている。まず、人の言葉を理解している犬というものを認識し、犬の気持ちを理解するための視点をもつ。そして犬の仕草から犬の発しているメッセージを聞き、それにどう応えるべきか考える。犬を愛する女性獣医が、心を込めて犬との共存を目指す説明を施す。
 私は、個人的には猫のほうが好きだ。だが、この本を読んで、犬の気持ちがなぜかよく分かるような気がした。もちろん、書いてあることが正しいからだろうし、著者の書き方が上手だというのもあるだろう。それもあろうが、私は、読んでいるうちに、これが犬の話だとは思えなくなっていたのである。
 そう。お気づきの方もいらしたことだろう。私たちは、「子ども」に対してどう接するかについて、この犬の飼い主の失敗例のようになってはいないだろうか。子どもが可愛いからと言って、親を主とすることを忘れ、子どもの言い分を通してばかりでいると、子どもは家庭の中での序列について、自分を上位に置いてしまう。親がそのことに気づいて軌道修正しようと焦ると、犬のように噛みつく……。
 犬と人間の子とを同列に置くなんて、とお叱りを受けるかもしれないが、構造そのものは大変よく似ている。甘やかすとどうなるかという姿などは、見事にそっくりなのである。
 私の胸の内では、犬のごとく、ペット化された子ども像というものもだんだん明らかになってきた。今や家庭において、子どもはどこかペット化されている。家族の一員としての役割というよりも、可愛い愛玩の対象であり、甘やかす親の自己満足の道具にすらなっている。やがて、王様の心で育った子どもは、意のままにならぬ現実と出会うにまで成長すると、外へ爆発するか、内に引きこもるか、家庭にあたら散らすかし始める。もしかすると、逆に虐待をするというのも、ペット化された事情を証拠立てることになるかもしれない。
 それはそうと、犬と友だちになる方法など、極めて実際的な知恵に満ちたこの本、愛犬家ならずとも、読んでためになることは間違いない。動物愛護の現実的な姿も、考えていくことができるようになる。




Takapan
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