本

『いのちまるごと 子どもたちは訴える』

ホンとの本

『いのちまるごと 子どもたちは訴える』
田中なつみ
高文研
\1,500
2003.3.

 小学校の保健室には、いろいろな子が訪れる。突発的な怪我や病気のほかに、何か助けを求めるかのようにやってくる子がいる。たとえ保健室に来なくても、教室で問題行動を起こす子とふれあっているうちに、その子の背景が見えてくる……。
 養護教諭としての著者が出会ったさまざまなケースを、生き生きと描くとき、著者は、表面だけでは見えない、子どもたちの全体を捉えようと努力する。
 他の子をいじめる子は、えてして自分が認められていない、自分が受け入れられていないということが多いという。家庭で暴力を受けているという事例もあるが、家庭で孤独を感じるために、学校でそうした行動に出てしまう、というような背景を、著者は見つめる。
 子どもの問題行動を、その子の全人格を助けるという使命の基に捉えるということは、簡単なようで、なかなかできるものではない。たんなる悪事だと全体の中で位置づけて、裁こうとしたり、ただ命じて止めようとしたりしがちである。
 しかし著者は、保健の立場として、誰に原因を求めたり、誰に責任を負わせたりするのでなく、ただただ、その子どもが立ち上がれるように、明るく笑顔になり、その行動をしなくてすむように、考える。
 思えば、イエス・キリストもまた、そのようにしたのではなかったか。誰かを悪に定め、自分を正義と前提するのでなく、ただただその問題の人を癒す眼差しを主が向けられたとすれば、養護教諭の仕事はそれに近いのではないか。
 本の題にある「いのちまるごと」という言葉もまた、そのような働きを予感させる。そしてキリストの福音を伝える私たちも、この姿勢を貫く必要があることを教えられる。




Takapan
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