本

『今こそ「わかる」有機化学入門』

ホンとの本

『今こそ「わかる」有機化学入門』
齋藤勝裕
安田正和イラスト
SBクリエイティブ
\1500

 テーマは「有機化学」。高校の化学の中から、数値計算を除き、有機物の構造を拾い出した上で、大学初級の必要な知識を紹介するようなものだろうか。
 見開きの左側に説明、右側にコママンガが載っている。著者らしい化学先生と、「姫」と呼ばれる謎の姫が登場する。姫の父母に雇われた家庭教師が、この先生らしい。富沢と呼ばれる姫の執事も脇を固めるが、これはスズメだろうか、姿は鳥である。
 有機化合物の定義に始まり、簡単な原子構造の説明があれば、「共有結合」の概念を植え付けることができる。炭素を主軸とする有機化合物の分子構造において、この結合は、物質の分類にも大いに関与するはずである。  最も簡単な構造のメタンに始まり、炭化水素や異性体の話、それからアルコールやエーテルなど、また芳香族が現れる。
 こうした説明は、カラーイラストでたいへん見やすく、左顔の頁だけでも、丁寧な説明がなされていると驚く。が、その間右では、真面目なのかどうなのか、姫が一つひとつ学んでいく家庭が、時にシリアスに、時にふざけたかのようにして、展開されていく。面白みという点では、とりたてて大笑いするような代物ではないが、左側で説明が届かないであろうようなことや、非常に重要な点について、そのマンガが伝えてくれるような気がする。
 それにしても、その姫の学び具合がまた、驚異的である。どんどん吸収して、化学を理解していく。私はもうだめだ。言わんとしていることは、分かるのだが、頭の中にこれらの知識が入っているわけではない。
 話は、酸化還元から、求電子置換反応など、次第に高度な内容に進んで行く。その時にも姫の態度はさして変わりがない。ずいぶん難しい話題のはずなのだが、確かに本書の説明は、素人にもたぶん十分伝わるような説明が、随所に施されているから、姫にも理解できていくのだろう。
 分子構造の説明となると、高分子化合物で終わりである。プラスチックの仕組みが分かりやすい。この辺りまで、私は、全部を分かろうとはせずに、おおまかな掴み方で目を通してきただけのようなものであったが、その先の章で、目が釘付けになった。「生命の化学」と題されたその章は、「生命と太陽エネルギー」から入るのだ。先日中3の理科の授業でやった内容ではないか。そのときに私が、テキストにはなかったが、デンプン・脂肪・タンパク質の組成についてレクチャーしておいた。本書でも、糖・脂肪・タンパク質の話がここから展開するのである。もちろん、生物の基本的な栄養である。しかしビタミンやホルモンの意味についてもここでは触れるし、DNAとRNAのはたらきについての説明が、簡素でありながら実に分かりやすい。そして2022年の発行である。mRNAとは何か、ということを話さないではおれないであろう。生ワクチンが中心だった時代から離れ、私たちは、いわば仮想敵から抗体をつくる仕組みの理解によって、早く膨大な数の、新型コロナウイルスワクチンを製造することができるようになったのである。
 最後に、SDGsに言及して本書は閉じられる。公害や地球温暖化のしくみについても、分かりやすく教えてくれる。海洋汚染の問題も、ニュースで大きく話題になっていた。こうした問題も、中学の理科の大切な学習である。そのため、終わりの5分の1だけでもいいから、多くの人に読んで考えてほしいものだ、と強く願う。地球環境について考える必要があるのは、中学生だけではない。大人もまた、これらの問題について知るために、本書を開いてみては如何だろうか。




Takapan
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