本

『すらすら読める今昔物語集』

ホンとの本

『すらすら読める今昔物語集』
山口仲美
講談社
\1680
2004.12

 実は直前に、角川文庫のビギナーズ・クラシックスというシリーズの『今昔物語集』を買って読んでいた。その続きで、図書館で見つけたこの本を借りて読んだのである。どちらも、古文の知識がなくとも読める現代語が十分に幅を利かせている。それでいて、古典の世界の空気が嗅げたような気になれるし、何よりそのスピリットがびしばし伝わってくる。
 とはいえ、それはやはりある意味で現代的な解釈なのかもしれない。ともすれば平安貴族の生活がなよなよとしていて女性などしゃなりしゃなりの世界かという先入観をもちそうなところを、実に気っ風のいい女性の逞しさや賢さ、武士の世界の天晴れな心構え、人間の奥に巣くう欲望と弱さ、そして油断ならぬ人生の教訓……それらを明確に映し出したのは、現代の要請であったのかもしれないからである。
 芥川龍之介をはじめ、幾多の文豪が、この古典からインスピレーションを得て作品を仕上げた。芥川の解釈もまた、古典本来の精神とは異なる様相のものであったことが、古典に触れてよく分かった。
 角川文庫のほうが、情報量が多く、グループで編集しているために偏りなく広範囲に取材ができていると思う。学習のためには、文庫はお薦めである。しかし、この個人著による講談社のものは、それとは別の味がある。今昔物語集に触れ味わう中で個人が出会い感じたこと、そこから励まされ勇気づけられるような体験、そうしたものが、生き生きと伝わってくる。収録された物語は、千余の本編からすれば微々たるものだが、そこに、何か救われるような思いさえ抱くことができるのは、著者の選択と、その解説とによる。また、類似の物語の紹介も豊富であり、900年ほど前の人が、どんな空気を吸っていたかが伝わるようにさえ感じる気がする。
 ただし、この物語の性質上当然だが、かなり性的な表現や叙述にぶつかる。中学生などに勧めることはできないタイプの本であるのが惜しい。




Takapan
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