『今すぐできる心の守りかた』
服部信子
KADOKAWA
\1500+
2024.8.
テーマは「フラッシュバック・ケア」。それが副題となっている。そのことを、ただ知識として説明するのが目的ではなく、当事者を助けることである。
著者は、トラウマセラピストという肩書きが、紹介には相応しいことと思われる。その背景には、アメリカにおける認定心理療法士であるとか、日本人として初めてのその道の公認講師、あるいはその道の研究書の講師であるとか、経歴の中ではたいそう華々しい活躍が示されている。その立場などを窺うならば、必ずしもクリニックで医師として「フラッシュバック」に悩む人に接しているわけではなく、その治療を「職業」としているのではないらしい。啓蒙的にでも、とにかく著者の許を訪ねてきたり、直接相談したりできないような多くの人に、少しでもアドバイスができれば、という思いの故に、こうした本を著したのだ、ということになる。
まず特徴的なのは、その文字の大きさと行間の広さである。1頁には、文庫本の半分の文字もない。それにも理由があるそうだ。「フラッシュバックを起こしているときでも読みやすいように」と書かれている。それは、時折注釈的な頁が、そこだけはやや標準的な大きさの文字で、しかし行間は十分に空けるという配慮を伴って書かれたコラムのような場所に、明確に記してある。こうした頁は、落ち着いた状態のときにじっくりと読めば善い者らしい。それよりも、大部分の「本文」は、実にゆったりとした調子で文字が置かれている。
しかも、イラストも殆どないに等しい。必要な図による説明が最小限ある、と見たほうがよさそうだ。
ところで、「フラッシュバック」とは、「昔体験したトラウマが思い出され、まるで今起きているかのように心と体が反応してしまうこと」と、最初に明確に定義されている。こうした大切な箇所は、太めのマーカーが傍線として加えられており、そういうところだけを拾って読んでも、当時者は心が少し落ち着くかもしれない。
それには対処法がある。その信念と研究を基にして、本書はスタートする。が、様々な注意が掲げられていることも特徴的である。たとえば、本書を読むと、よけいにまた刺激されて、過去のことが思い出され、気分が悪くなるかもしれない。よくない場合には、本当に発作に見舞われるかもしれない。しかし、そうした兆候が出てきたときには、どうぞ読むのをおやめください、というふうに申し出ているのである。そうした現象についても、できるだけ具体的に説明がなされ、自分のこれはその反応だろうか、と訝しく思う必要もなくなるほどである。そして、そのときにはどう対処すればよいのか、も丁寧に指示されている。応急処置には役立つことだろう。
さて、本書が教える具体的なアドバイスについては、ここで私が中途半端に挙げて、悩んでいる人に誤解を与えたり、誤った知識を提供したりしてはならない、と考えるために、ここではご紹介しない。ただ、いままで触れたことは「はじめに」などの数頁にあることで、この後に、たくさんの実際の具体的な説明がたくさんあるので、お悩みに方は、本書を開いてご覧になることをお薦めする。
しかし内容について少しでもヒントが知りたいと思う方もいるだろうが、せめて章毎の題だけでも並べることにしよう。「フラッシュバックが起こったら意識したいこと」「フラッシュバックを(?)具体的に対処する方法」「フラッシュバックの基本を知っておこう」「フラッシュバックと脳の働きの関係」「フラッシュバックの「きっかけ」らになること」「トラウマと向き合うにはどうしたらいい?」そして「フラッシュバックを予防するときに大事なこと」が最終章である。
最後には、「フラッシュバックは心の弱さではない」ことと、「フラッシュバックは軽減できる」こととが強調される。これならそのアドバイスを聞いてみよう、と思う方は、実際に手に取ってみるとよいと思う。判断は、その人にお任せするとしよう。但し、症状に悩む人のみならず、そういう人の家族や、そういう人をケアする人にも、本書は効果的であるだろう、と著者自身が挙げている。その眼差しは、災害時の被災者支援活動に関係する人や、ただ理解を深めたい人にも及ぶ。理解するだけでも、社会に、フラッシュバックで苦しむ人の居場所をつくるためには役立つだろうという視点があると思われる。この辺りは、私も学びたい見方であると思った。

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