本

『イメージと科学教育』

ホンとの本

『イメージと科学教育』
平林浩・津田道夫
績文堂
\2310
2005.2

 前半は、授業風景の細かなスケッチのようであった。科学的な実験を取り上げた授業だが、小学校の子どもたちが、イオンだの浮力だの難解と思われる概念の言葉を口にして、事象の理解に挑み、あるいは実験結果を予想するといった過程が、細かくレポートされている。
 読者に親切であるかどうかは別として、教育実践のレポートとして、実に見事なものであろうと思う。
 学習の理解が、暗記や特別な才能によるというよりも、心に描く豊かなイメージによって進むのだということは、私も経験的に知っている。私の授業などは、ほとんどそれの連続だ。できるかぎり、具体的な例を示して説明しようとする。すべてにおいて抽象的な考えの羅列で子どもたちに分かってもらおうとすること自体、馬鹿げている。小学生はもちろんのこと、中学生にでも、具体的な例によって理解を促すことが有効であり、また重要なのである。
 本の後半は、逆に、一般的な理論を展開する学術論文調のものから成っている。いわば認識論のひとつを語っていることは、よく分かる。
 だが、これがどうにも腑に落ちない。単にヘーゲルとフロイトのみを引いてきている点にも偏りがあるが、何か例示しようとするその中に、妙なイデオロギー的なものや、思想的なものが露骨に現れてくるのである。たぶんそんなことを持ち出す必要がないだろうと思われるところに。
 プロフィールによると、やはり国家論や思想史についての著書が多数あるということだ。科学の中に、あるいは科学教育の中に、思想的意図を持ち込むことは、あまり勧められるものではない。
 イメージの教育はそれとして面白いものではあるが、果たしてこの本が健全であると言えるのかどうかは、私が決めることではないみたいだ。




Takapan
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