『異教徒暮らしのアラビア』
和田朋之
彩流社
\2300+
2024.4.
サウジアラビアに、2001年から三年間暮らしていたという。商社で海外のインフラ・プロジェクトに携わっていたという。
まるで片手間に書いたかのように見えるかもしれないが、決してそんなことはない。むしろ、命懸けで現地で生きている姿が伝わってくる。たんなる旅日記でもなく、実際に暮らすということでの重みもある。また、その重みを伝えようとする非常に知的な描写も目立つ。
特に、イスラム教の歴史については、通常の本でもなかなか見られないほどに詳しく書かれており、その背景としての聖書についても、実に整った形で説明されている。これは聖書とイスラムについての学習のためにも優れた本となっている。
しかも、それは私のように机上の知識ではない。中東で暮らしているのである。実際にその地の人と触れ合い、付き合い、また危険な事態を潜り抜けてきた人の体験である。昔話を語り伝えているのではない。自身で見て、聞いて、触ったものについて綴っているのである。これは読み応えがある。
副題が長い。「隆盛のサウジアラビア、相克のイスラエル・パレスチナの歴史を辿る」と掲げられている。そうだ。イスラエルとパレスチナの歴史についても、たいへん細かく書かれている。特にイスラエルの建国からその後の戦争についての筆には力が入っている。
2023年にハマスがイスラエルに攻撃したことから、イスラエルの報復がガザへと向き、その後この戦争は陰惨を極めている。報道の言葉ひとつで、門外漢にはどちらが悪いだのと傍観的な批評をする基盤を与えてしまうものだが、本書では、その背景が丹念に綴られているから、正に2024年という時代の中で、日本人が知るべき中東の事情がここに語られていると言ってもよいだろう。
繰り返すが、これは肌で感じる当地の空気を伝えるものである。同じ歴史を記述するにしても、選ぶ言葉やその厚みというものが違う。私はとくにそこをやはり強調したい。見える景色、出会う人、社会生活をするための心得など、息づかいが感じられるほどに迫ってくる。
最初に挙げたが、2001年からサウジアラビアに著者は暮らしている。3月からである。これが何を意味するか、ピンとくる人は驚くことだろう。暮らし始めてから半年後、あのニューヨークなどにおける同時多発テロが発生しているのである。全世界の眼が中東に向いたのであり、アメリカの怒りが爆発し続けることになったのだ。そこで見た中東とは何だったのか。本書はそこだけを強調しているわけではない。しかし2003年3月から、いわゆるイラク戦争が始まっている。このときの現地の姿をも、本書はレポートする。
呑気な旅のレポートではない。だが、生活をもよく知らせてくれる。まことに、歴史から生活まで、当地のことを豊かに知らせてくれる本である。必ずしも、まとまった構成をもつ論述ではないかもしれない。だが、丁寧に読めば、実に多くのことを教えてくれるものである。学術的な文章ではないために、贅沢を言うことは控えるべきだが、私は索引が欲しかった。あのことはどこに書いてあったか、読んだ後でまた学びたいときには、索引が必要である。一度読んで終わりではなく、また知りたい、改めて調べたい、そのように思うときのツールである。簡単でもいいから、本書のような優れた内容をもつ本は、索引があることが望ましい。私はいつもそう考えている。
なお、聖書についても詳しい知識が鏤められているため、聖書を知るクリスチャンのためにも、たいへんよい学びになる。聖書が成立した地は何を抱えているのか、どんな風景や思いを含みもつのか、それはやはり、その場所を知る人から、よく伝わってくるものである。もっと広く知られてほしい本だと思う。

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