本

『「いきもの」前線マップ』

ホンとの本

『「いきもの」前線マップ』
今給黎靖夫
技術評論社
\1659
2005.6

 ありそうでなかった本に出会ったときは、感動する。それは、たんに私が知らなかっただけ、ということでもいい。
 桜前線という言葉はあまりにも有名である。だがそれゆえに、日本列島の北と南とでは、季節感が大いに違うであろうことも、いつも気になっていた。九州でサクラが咲いたからと言って、北の地方で同様に花見ができるわけではないのだ。そんな当たり前のことが、東京中心の季節感でマスメディアが語ることによって、忘れられてしまう傾向にあるかもしれない。
 百余種のいきものが、いくつかの土地で、初めて見られた・聞かれたのはいつか、がグラフ化されて並べられている。これが実にユニークな資料となっている。
 ただの科学データばかりではない。そのいきものの生態について、あるいは由来についてなど、不思議な切り口による紹介が各頁になされている。豊かな情緒を備えた、歳時記のようにさえ感じられるのだ。
 そこには、短歌や俳句が鏤められている。日本人が古来味わってきた「こころ」のようなものが、そこはかとなく漂ってくる解説であると思う。
 だがまた、近年その開花日や初見日が早まってきている様子がグラフから見てとれるとなると、温暖化のサインがはっきり出てきているというふうに捉えることもできるだろう。私たちは、ただいきものに感傷を抱いて喜んでいる場合ではない。
 副題に「大人が楽しむ地図帳」とある。十分楽しめる。ただ、上の理由で、楽しんでそれで終わりとするにはもったいないだろう。この項目に「ヒト」というものが標本のように現れるようなことのないように、私たちは真摯に考えなければならない。




Takapan
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