本

『池上彰のメディア・リテラシー入門』

ホンとの本

『池上彰のメディア・リテラシー入門』
池上彰
オクムラ書店
\1470
2008.2

 こういう本が欲しかった。
 実に誠実な思いで、教育的配慮もこめ、すべての人を尊敬しつつも、真実に従うために、違う角度からものを見るということを伝えてくれる。
 かつて「週刊こどもニュース」という番組で、子どもたちを前にして、ニュースを分かりやすく伝える仕事をして、世に知られるようになった、NHK記者。私もその番組から多くを学んだ。だからこそ、私の理想とする一つの姿を、ここに見るような思いがするのだろうか。
 このような味方を必要としているのは、若者だけではない。世のすべての人である。少なくともメディアを利用して生活する者は、メディア・リテラシーを意識しなければいけない時代にきているはずである。
 よく聞くリテラシーという言葉だが、読み書き能力というふうな平板な意味から、今やこのネット社会において、情報を的確に判断する能力を指す言葉として、重要な位置を占めている。
 私たちは時に言葉の裏を読み、取材する記者や報道するメディアに携わる人間たちの立場などにも想像力を用いながら、現象として届くその情報を理解しなければならない。たんに偽装というのは、どこからか突然やってくる悪者ではなく、その構造に必然的に備わっている罪のようなものなのだ。
 いや、私の考えをとやかくここで言うのが目的ではない。
 原稿が書きたくてNHKを退社した著者である。記者として、伝わりやすい言葉や表現を選び、非常に読みやすい本になっている。それでいて、知的なレベルにおいて下がるようなことは全く感じられず、さらにそこには、人としての温かみも感じることができる。ユーモアのセンスも、ときおり光っている。
 テレビや広告のからくりも分かるし、世界情勢の報道の陰というものも、分かる。子どもたちの置かれた状況やそこで発生する苦難の問題にも、答えようとしている。おまけとしてだろうが、今旬の司会者たちのエピソードも添えてあり、読み応えのある本となっている。中学生くらいから、読んでよいのではないかと思うし、穿った見方をすれば、これは将来、国語の入試問題に用いられる本であるに違いないと思う。ちょっと内容が暴露に過ぎて、圧力がどこぞからかかるかもしれないけれども。
 ただ一つ、最後の「解説」をしてくださった増田ユリヤさん。池上彰氏とよくペアを組んでいる方なのでとやかく言いたくないのだが、この場所に、特定の人の個人情報を、出し過ぎではないだろうか。自殺報道をすることが自殺を助長する、という著者の悲痛な叫びを載せた本の最後に、こういうものを必要以上に書くというのは、私には信じられないことなのだが……。




Takapan
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