本

『いじめられている君へ いじめている君へ』

ホンとの本

『いじめられている君へ いじめている君へ』
朝日新聞社編
朝日新聞社
\525
2007.6

 朝日新聞で2006年秋から冬にかけて掲載された、著名人の手によるコラムが、単行本化された。
 30人から、それぞれ、メッセージが送られている。ひとつは、いじめられる側の人へのメッセージ。もうひとつは、いじめる側のメッセージとして書かれている。これもまた、大切な視点だ。どちらをも、救わなければならない。それを明確に区切って、言葉を贈るように作成されている。
 いくつもの考え方が、それぞれの人に現れているが、いじめを社会でも普通に行われていることである、という認識や、狭い社会で必ず起こること、そしてきっとそこから抜け出せるという確信が、しばしば伝わってきた。
 心をこめた言葉が連なると、美しい。
 私は個人的に、平野啓一郎氏の視線にどきっとさせられた。自分を許せない、自分を好きになれないのは一番つらいことだ、という意味の発言である。いじめたことを後悔しても、そんな自分と付き合っていかなければならないのは、当の自分自身なのだ、というわけである。
 さすが叡智ある文学者だということのほかに、やはり人間に対する真摯な眼差しがそこにあると言うべきだろう。
 いかにも分かりやすい、その場限りの耳当たりの良い言葉で笑い飛ばすようなコメントが世に多い中で、言葉そのものを自分の背にぎっしり背負い受け止めている。責任を感じる言葉だと感じる。もちろん、この本の中には、そういう言葉が詰まっているからこそ、この本の輝きがあるわけで、どのライターも、弱い人間を真正面から捉えている。決して、誰それが悪い、と他人事のように呟いているわけではない。
 ともあれ、これは当事者に読んでもらいたい本として作られている。字の大きさや読みやすさ、そして何よりも、これだけの装丁を500円で売るという方策である。殆ど赤字ではないかと思うが、それでも、子どもたちに読んでもらい、救いとなってもらいたいという願いから作られているのだ。
 30人の筆者の中の、5人を福岡県出身者が占めるというのも、私にとり、驚いたことであった。
 私もまた、こうしたタイトルの文章を書いたことがある。本人が読んでくれるかどうかは分からないけれど、やっぱり同じような言葉をかけたいと思うことがある。
 そしてその上に、神に創造された人格としてのその人を、大切にすることの、難しさと素晴らしさとが、その人に伝わるならば、と願うのである。




Takapan
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