本

『電子書籍のつくり方・売り方』

ホンとの本

『電子書籍のつくり方・売り方』
小島孝治
日本実業出版社
\1890
2010.10.

 2010年。電子書籍元年などという呼ばれ方をした割には、実のところ誰が使っているのか、などと言われた、電子書籍。だが、それを唱えなければならないという使命を受けた人々は、これを普及させるべく、立ち上がった。あるいは、これを大々的に取り上げることが必要であると理解し、また、たとえわずかでも、利用者がいるのだからその人々に道を拓いておかなければならないという考えの故に、電子書籍の取り扱いに関する雑誌記事や本が次々と現れた。
 これも、その一つである。
 ところが、そのうちだんだん利用者が増えてくると、最初期には皆が右も左も分からなかったものが、だんだん広まっていき、それどころか常識化していくことになる。パソコン初期には、「マウス」の「クリック」とは何か、から説明を始めなければならなかったのが、今そんなことを説明する人はまずいない、そういうものである。また、紹介したサイトが変貌して、本で示した通りにはならなかったり、あるいは、別のもっとよいソフトウェアが現れたりと、すぐに時代遅れとなってしまう虞がある。このあたりが、ネット情報との違いであり、哀しいものがある。紙媒体の書籍は、しょせん、電子媒体には速度の点でかなわないのである。
 発行の日付から四ヶ月経ってからようやく図書館に入り、私がこうして手に取ったわけだが、すでに状況が変わっている。その点を踏まえて理解しなければならない面が、どうしても伴う。
 とはいえ、電子書籍を自ら販売する方法についての懇切丁寧なアドバイスは、その方面のことを考えている人にとっては、ありがたいことであろう。というのは、たんなる利用者のための手順紹介で手一杯のこの時期に、すでに電子書籍を提供する側、出版する側の立場で行動すべきことを伝えた意義は、決して小さくないからである。
 そのうえ、本は、実際の画面のスクリーンショットを多用し、たんに言葉による説明でなく、要するにこれが出てきてここをこうすればよい、という方式が、実によく伝わるのである。百聞は一見にしかず、というところであろうか。それほどに、丁寧な説明は、時にくどいくらい、分かりやすい。
 欠点は、黎明期であるからには、仕方があるまい。すぐに古びて、使い物にならなくなるような内容ではあるが、一部の人にはタイムリーで、また貴重なものと目に映ったことだろう。ただ、それならば、この本は装丁にしても、価格にしても、立派過ぎたのではないだろうか。ムック方式の、雑誌めいた特集で、十分可能であったことだろうし、私はそれが適切であったという感想をもった。価格も千円くらいで収まるようにして、大きな版で出したならば、もっと売れる可能性のあった本ではないか、と思うのだ。そんなことはないのだろうか。
 それから、このショットによるブラウザの例示は分かりやすいのであるが、その他の説明は、よく見るとただの文章ばかりである。パワーポイントばりの図解がないわけではないが、ごくわずかである。文章の羅列でない、図解やアルゴリズム的紹介など、プレゼンテーションの面で工夫する余地があったように思われる。この本自体、電子書籍のように、一定の簡単な手続きで完成してしまったものと推測される。即刻出版しないといけない内容であったことからそれもやむを得ないだろうが、だったらなおさら、このような実用書である想定よりも、紙質の落ちた解説雑誌的な形式で世に示すほうがよかったのではないだろうか。素人の口にすることだから、私がそう思っただけのことなのかもしれないけれども。




Takapan
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