本

『「子育て支援が親をダメにする」なんて言わせない』

ホンとの本

『「子育て支援が親をダメにする」なんて言わせない』
大日向雅美
岩波書店
\1680
2005.3

 東京都港区に、NPOと行政との協働による子育て・家族支援の施設「あい・ポート」がつくられた。2003年のことである。
 その施設長としての経験と、長年の女性と子育ての問題への関わりからくる考えとをまとめた本である。
 実は著者の本が家に以前からあった。もう十年以上前の本であるが、しつけをのびのびとしよう、という、3歳以下の子どもを育てる親へのガイドブックであった。マンガやイラストが効果的に用いられているというのもあるが、何より内容が優しかった。親が豊かにならなければ、子どもにもよい影響を与えるものではない、という立場があるということが、今回の本で改めてよく分かったが、それだからこそ、かつての本も、読んでいてほっとする内容であったし、それに沿うような気持ちで、上の子を育てることができたのではないかと思っている。
 バカな母親の姿は、時折女性週刊誌のネタとなる。今の親はなっていない、という声もよく聞く。一面、それはあるのだということで、私も言葉を発することがある。だが、それを言っても、何の解決にもならないばかりか、そう言うことで、よけいに悪影響を及ぼすということを、念頭に置かなければならないことが、よく分かった。
 無知な部分、気づかない部分というのも、あるものだ。その、非常識な親の中に。いやはや、私もまた、その一人であることを確信する。私も相当、変な親だし、迷惑をかけているはずであるにも拘わらず、そのことを重くみていない面が多々ある。
 子どもを気兼ねなく預けたり、親同士のコミュニケーションも図ることができる、お手軽な施設が、この「あい・ポート」である。その理念から現場の問題事例など、後半はこの施設のことがリポートされている。
 子育ての支援をすることで親が甘やかされていて、ますます自分勝手になる。この意見に対する反論が、この本の命である。それは、およそ自分では子育てに浸かることのない、男の意見であることがしばしばであるし、女性知識人から聞かれるときには、昔はよかったとか、昔の人は偉かった式の発想からきていることが多い。いわばこの半世紀だけの歴史でしかないような、女性が子どもを一手に抱えて育てるべきである、という事例を、あたかも日本の――しばしば人類の――普遍的な真理であるかのように、外野から語る輩によって、どれほどの母親たちが傷つけられているか、窺える。
 こうした施設によるサポートも重要である。
 と同時に、私の持論は、他方で、自然発生的な子育て仲間の出合いというものも起こるように「場」を与えてもらいたい、ということである。施設を介して仲間ができるのは、それはそれでいいし、公共的に子どもを信頼して預けるというのも、実にすばらしい制度なのであるが、そのほかの、自然な出会いの「場」を用意しておいてほしい、というのである。つまり、最近実はあまり聞かれなくなった「公園デビュー」。十年前に流行ったこの言葉がなぜ聞かれなくなったか。それは、公園へ子どもを連れて行くことが一般的でなくなってきたからである。公園といっても、近代的な遊具が揃ったいかにも見目良い公園ではない。砂場とすべり台があればいい程度の、小さな子の喜ぶ広場である。そこへ子どもを遊ばせにくる。子どもはお気に入りである。そんな親同士が、気の合う者を作り、話に花を咲かせたり、励まし合ったりする。もしかすると、時に特定のグループができたり、諍いや感情のもつれが生まれるかもしれない。しかし、こうした出合いは、契約に基づくものではないだけに、自然に解消すればいいというケースもある。強制がないのである。できるだけ自然に、何かが始まるような、そんな小さな公園という「場」があれば、何の管理も施設も制度もマニュアルも、いらないのである。
 施設がいい、という人もあろう。他方、こうした自然な出会いが望ましい、と思う人もいるはずである。ところが、近年、こうした公園が、次々となくなっている。私の住む地域では、子どもの数は若干増えている傾向があるのに、子どもたちが自由に使える公園が、激減しているのである。当然、親が子どもを連れて遊ばせるという機会が激減している。私はしょっちゅう3歳になる息子を連れて公園に行くが、そこで出合う親子が、実に少ない――殆ど出合わない――のである。公園自体が少ないせいでもある。幼児教室には、何十人かは集まるのだが、そういう幼児教室に集いにくい環境にある保護者は、ますます誰とも話さず出合わなくなっていくのではないか。
 この本とは関係ないところに走って行ってしまったが、「場」の提供だけでも、子育て支援となりうると、分かって戴きたい。何かの制度を期待するだけの親と子がすべてとなっていくと、自分で考え、生きていく力がますます脆弱になっていくと思われるから。でも、一方で、何かの力になる施設の方々、頑張ってください。




Takapan
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