本

『癒しのユーモア』

ホンとの本

『癒しのユーモア』
柏木哲夫
三輪書店
\1600+
2001.7.

 淀川キリスト教病院名誉ホスピス長である柏木哲夫さんの本。日本にホスピスという分野を切り拓いた功績は大きい。ターミナルケアなど、今でこそ万人が知る言葉となったが、当初は、それは何のことかというふうでもあった。病院は、病気を治すところであった。悪いところがあればなんとかそれを治療しようとし、辛い薬くらいならまだいい方で、ひどく切り刻まれたり、スパゲティ状態にされたりするのが当然と見なされていた時代である。ところが発想を換えるというのはものすごいことであり、死を前提にして、残された日々を有意義に過ごす目的を第一とし、そのために病院が「健康」管理をするという具合に考えていくならば、対処はまるっきり変わってくることになるのであった。QOLという概念も、ここと結びついて関心を持たれるようになったのであろう。
 本書は「いのちの輝きを支えるケア」という副題をもつ。なんだか真面目な本のようである。表紙も、ちょっと格調ある気配を漂わせる。これはちょっと失敗なのでは、と私は思う。というのは、中は実に楽しいからである。もちろん、死を前にした人に対して楽しいだなどと他人が声をかけるのは失礼ではあるのだが、見方を変えれば万人が死刑囚なのであって、いずれ同じことを経験する。人生を明るく捉えたい、ユーモアはどこからどのように生まれるのか、その中にいることはどうすればできるのか、ということについては、基本的に差異はない。
 著者は本書の多くを、川柳に費やしている。それが趣味でもあるわけだし、患者と分かち合って川柳を作り合うようなことをしているのである。だから私は、本書の表紙に「川柳」の文字を入れたり、それっぽいイラストなどにしたら、この本はもっと手に取られやすいものになったのではないだろうか、と思うのだ。
 川柳創作のコツや、そもそもそのおかしさはどこからくるか、といった分析をも含め、まるで川柳講座のような様相をももつ。また、様々な体験談や出会った人々との交流などを、読者を厭きさせないような形で提示して、バリエーション豊かに本文を進めていく。読んでみると、たいへん居心地のよい本になっていると思う。
 周知のとおり、この病院はキリスト教精神に基づき、著者もまたクリスチャンである。そめため逆に、私たちクリスチャン仲間からすれば、柏木先生のことだから聖書に基づいて聖書のユーモアが紹介しているのではないか、という気持ちさえするのであったが、それは裏切られた。聖書について何か紹介しようという雰囲気は見られない。もちろん、聖書を前提した世界ではあるが、聖書に興味がない人にも申し分なく内容を楽しめるものとなっている。人の生き死にを真剣に考えようとする人には、宗旨に関係なく、読めるようになっていて、却ってそれがよいと思うようになった。
 ある頃からブームのようになった「癒し」という語を、最初題に使うことには抵抗があったという。そんな流行のようなものとは違うからだ。しかし、実際に患者たちが癒しという語を用いることと、その癒しには、神からのものと人との関係性の中でのものと2つあるとした上で、後者の中にユーモアというものが大きな力を発揮するという捉え方を見ることによって、タイトルに「癒し」を付けるようにしたのだという。表面上は楽しげなふうであるかもしれないけれども、一つひとつの事柄に、心を配り、真摯に問いかけているのである。そうなると、おちゃらけた表紙がいいのでは、という私の意見は、やはり適切でなかったのかもしれない。他人を蔑むようなお笑いでなく、誰もが幸福に近づくユーモアということで、私も心がけていきたいものだとつくづく思う。




Takapan
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