本

『人間としての哲学』

ホンとの本

『人間としての哲学』
ガエタノ・コンプリ
マガジンハウス
\1500+
2019.9.

 帯にある言葉を並べると、「その在り方・生き方を考える」とあり、また「カトリック系中学高校で16年間校長を務めたイタリア人神父が贈る「生きる智恵」」とアピールしている。本書の特色をさすが見事に宣伝していると思う。
 現実の小中高の道徳教育の基準をよく知っているので、それを踏まえて、しかし日本政府の意図とは恐らく違う方向性で、聖書文化を背景に人間そのものに迫っていこうという力作である。間もなく90歳になろうとする著者が、これまでの自分が育てようと子どもたちに対して思っていたことをすべて凝縮するような形でまとめた、と言っても過言ではないだろう。しかし、教義の押しつけではない。そこは教育者である。カトリックの教義にまつわることは注釈にまわし、本文は古今東西の哲人や歴史上の出来事を取り上げ、また、現代社会におけるリアルな問題とも重ねながら、哲学的なテーマを次々と提示していこうとしているかのようである。
 こうなると、倫理的関心にまつわる領域はすべて扱う勢いとなっているから、実に広い問題領域に触れている。人間としての生き方の問題に、哲学的な思考を多様に適用していくので、案外いまの日本では、これを以て「哲学」として学ぶというのもひとつあってよいような気がした。横書きであり、本の雰囲気からすると、高校の社会科関係の教科書のようだ。あるいは副読本であってもいいが、内容的な点からすると、やはり確かにこれは高校生の教科書をモデルとして、そうした世代に読んでほしいという願いがこめられているように思われる。もちろん、大人であってもいいはずだし、大人こそこうした純朴なと呼んでもよいような、理想的な存在を目指す人生論を味わってほしいとも考えているのではないか。かつてはこうした人生論は多々あったが、今どきはこうしたものを尊重する気配もなくなってきているように思われる。
 アリストテレスやカントなどもよく読みこなしている方であるようで、またフランクルの言葉の引用も多い。日本で暮らして日本語としても申し分がないので、日本が世界にどのように見られているか、も紹介しつつ、実はそのように見られて損をしているが、日本にもよい背景があることもよく分かっているので、少しほっとしながら読んでいくことができる。とにかく、理想的であるかもしれないが、高校の教科書を読むように、味わっていけるのではないかと考える。
 これだけ多くの問題を180頁の中に納めてしまうため、叙述は可能な限り簡潔にまとめてある。また、論証する暇はないし、そのために少し先走った結論にジャンプしてしまったのではないかと思う場合もないわけではない。多少偏見かも、と感じることもないわけではないが、まずはゆっくり向き合って話を聞くというのは悪くない。むしろ、論点を整理した内容で、分かりやすさは間違いない。
 やはり高校生世代にまず勧めたい。そして大学生もちょうどよいかと思う。もちろん、大人の方々も、これは読んで損はない。私は力作だと思う。リスペクトの気持ちを懐きつつ、哲学を学んでみるのはどうだろう。哲学史や哲学的知識ではない。自分がどう生きるか、人生とは何かという問いに基づいて、思索の基本を学ぶのである。哲学というものが、西洋人の名前と本を覚えることではないということが、すぐに分かるだろう。私たちの日々の営みが生き生きとするものであってほしい、私などは本書の読者に対しては、それがすぐに現実になるのではないかと期待している。背筋を伸ばして学んでみよう。




Takapan
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