本

『勉強法の科学−心理学から学習を探る』

ホンとの本

『勉強法の科学−心理学から学習を探る』
市川伸一
岩波科学ライブラリー
\1200+
2013.8.

 岩波書店は、電子書籍も、紙書籍と同価格で販売している。それはそれでひとつの考えであろう。電子書籍のほうが安くて当たり前だ、と思うつもりは私はない。しかし、そもそもこのライブラリーのシリーズは、内容が濃い一面、比較的薄いブックレットのような風体でありながら、価格は単行本として付けられているから、量的なことに限れば、割高感が伴う。そうなると、電子書籍になると、さらに割高感が否めないように思う。いくらか価格を下げて戴ければありがたいと思う。
 岩波ジュニア新書で2000年、『勉強法が変わる本』を著したのが、この著者である。ジュニア新書では、中高生向けに、心理学的な面から、学習法についてのアドバイスを果たしていた。いま、それが学習一般に拡げられ、高校生が目されているようだが、あるいは大学生や社会人の学びの中でも役立つようなやり方で、解説が施されているのがこの本である。
 とはいえ、実践的な学習法の羅列というよりは、その心理学的な根拠や理論が中心であって、そもそも人間はどのようにして記憶をしているのか、というあたりから説き始める。これを回りくどいと思う読者もあるだろうが、それならば、そもそもこの本を繙く意味がない。たとえば数字を記憶するときの脳の働きというのは、数字をひとつひとつ記憶していくというよりも、いくつかのまとまりで把握していくのが効率がよい、つまり記憶について強い人は、そのように効果的に記憶をしているのだ、というあたりから話が始まる。
 具体的にどのようにすればテストで点が取れるのか、ハウツー的なものは期待できない。まさに、この本が書いていることを読み取り、理解して、自分にとりどのように実践すればよいのか、を考えなければ役立たない。その意味では、すでに頭がよくなければ自分のために具体的に利用することができない、というパラドクスがここにあるかのようであるが、そういうさしあたりの目標だけに囚われず、そもそも記憶とは、学習とは、と好奇心を以て挑んでみるほうがよいだろう。
 ある意味で、すでに点数を取るコツを心得ている学生にとっては、ここにあることは、すでに実行していることばかりであるのかもしれない。ただ、それは概して経験的であり、学的ではない。根拠のない確信であったはずである。そこへ、科学のメスが入れられた。それが、心理学という科学により説明された、本書のような本の役割である。私は、こうした本にばかり頼るのは間違いだと思うが、ときおり触れて、刺激を受けるべきだと思っている。ハウツーでもいいのだが、他人の家を覗くような思いで、他の人々のやり方を知ることは悪くないし、また、自分が一定のことをやり続けている中で、改めて方法論を読むと、その言わんとしていることが実にびしびしと伝わってくるものである。
 決してこれは脳科学の本ではないから、学者向けではないにしろ、高校生でも十分伝わりうる内容である。逆にこれだけの薄手であるからこそ、要点が分散せずに済んだのかもしれない。読みとるのに一定の教養や経験などが必要になろうが、図書館ででも、触れて読んでみることは、大いにお勧めするところである。




Takapan
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