本

『「教会」の読み方』

ホンとの本

『「教会」の読み方』
R.テイラー
竹内一也訳
教文館
\2100+
2013.8.

 画像や象徴は何を意味しているのか。本の題と副題とにおいて、ほぼ原著の英語を日本語にしているという感じである。著者は、イギリスで英語や法律を学んだ人で、必ずしも神学者やそれに近いというところではないらしい。だが、キリスト教の象徴について話をしたときに浴びた質問が基になって、この本の執筆へと向かったのだという。
 そういうこともあって、教会と聖書について、その表す意味や伝統的な理解というものを丁寧に、しかし簡潔に説明をしている印象である。神学的な意味や深みが告げられているというふうには見えず、聖書と伝統の理解が、事実の羅列というような印象で淡々と記されている。いや、事典のような役割を果たすためには、これで十分である。そのほうがよい。
 ただ、これが日本人を対象にするのならともかく、英国である。その説明には、カトリックや英国国教会の色彩が垣間見えるような気がしたが、だとすれば、英国内でも、聖書の内容については、ことさらに基本的な説明をしないと理解できない状態になっているということになる。実際、日本でも、仏教については改めて説明しなければ人は内容を知るわけではない、とも言われる。だからイギリスでも、キリスト教は文化の背景にあるにしても、その内容や意味については知られていない状態になりつつある、ということになるのかもしれない。だとすれば、これは私にとり若干のカルチャーショックである。
 しかし、逆にこれが、日本語訳をされたということは、聖書について何か知りたがる傾向のある日本人にとり、良かった、とも言える。キリスト教についての、ほどよい解説になっているのである。
 聖書の信仰を押し付けようという感じはしない。また、やたら専門的に詳しすぎるということもない。西洋文化を理解するためにほどよい内容であると言える。しかも、通例聖書の解説をする場合よりも、聖書以後の歴史を踏まえた説明が施されていることが多く、広く西洋文化に潜む前提となるものが、手際よく整理されているようにも見える。ラテン語で表されてカトリック教会に読まれ続けている言葉も、いくつも現れる。
 図版は多くはないが、最低限出てくるようで、助かる。それでも、これがシンボル事典の役割を果たすならば、もう少し視覚的な面を表に出しても良かったのではないかという気がする。近年、西洋美術から、聖書の内容を紹介することが一般的になってきている日本である。美しいグラフィックと写真で、絵画から建築などあらゆるビジュアルな要素が展開される派手なものが出回っている中で、本書はかなり地味な印象を与える。まるで専門書であるかのようだ。決して中身はそうではない。もっと気楽に読め、軽く明るい本だと思うのに、一般的にはそのようには見られない恰好になっている。少しもったいないように思う。
 実際、価格的にも、専門書のように受け取られてしまう。一種の専門書かもしれないが、もっと広く手に取られてよいのではないかと思うのだ。




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