本

『放射能を落とす下ごしらえ』

ホンとの本

『放射能を落とす下ごしらえ』
椎名玲・吉中由紀
中央公論新社
\1260
2011.9.

 2011年3月11日に東北を中心に多大な被害をもたらした、いわゆる東日本大震災は、地震もさることながら、津波により景色を一変させ、あるいは再起不能と思えるほどの打撃を与えた。のみならず、人的災害と呼んでも差し支えないだろうが、福島の原子力発電所から放射能が放出され、これにより当地を人の住めない状態に変えてしまった。今後いつ戻ることができるのか、なかなか展望が立たないでいる。
 この放射性物質は、他の地域の人々にも影響を与えかねない状況となっている。それがまた、たとえば福島の産物への風評加害となってもいくわけだが、現実に放射性物質が付着した食物があちこちに出ていることは否めないとなると、それへの対処は考えなければならなくなる。特に子どもにはそれが蓄積しやすく、影響も出やすいのであるから、小さな子どもをもつ親にとっては深刻である。ナーバスになるのも肯ける。
 しかし、知識は必要である。恐れているばかりでは、何も使うことができない。しかし、避けているようで実のところ肝腎なところを知らずに汚染され続けるというのもよろしくないだろう。噂や評判だけで判断しては危険だということも、賢明な人は知っている。
 そこで、こうした本が登場した。
 実に細かい。野菜は洗うのだ、という程度のものではない。同じ野菜でも、一つ一つの種類ごとに、どのように洗うのか、また茹でるのか、そんなことも違った指摘がなされる。これをすべて覚えて日々野菜を処理している人がいたら、本当にすごい。肉もそうだ。その他、私たちがふだん口にするであろうような、あらゆる食材がここに挙げられていく。その危険性はどういうところか、調理法もだが、入手経路にも気を配ることがアドバイスされていく。その徹底さは、見事という他ない。
 こうしたことができるわけは、著者たちが、これまで長く、放射性物質というよりも、まずは残留農薬や遺伝子組み換え食品、中国産やBSEといった問題について、的確な調査をし、注意を世間に促してきたからだ。その原因が放射能になったというだけのことなのだ。放射能については、発ガンも気になるが、食べ物という点からしても、癌を遠ざける食生活についてまで、具体的な例を挙げて説明されている。その上で、この放射能問題についての、生活全般における質問と答えの形式で最後に触れてあるのがまた親切である。
 神経質になりすぎるのもどうかという意見もあるだろう。だが、日常のちょっとした気遣いは、さまざまな病原菌なり農薬なりからも身を守るための知恵となる。どのように食品を下ごしらえするのか、その基本的な学びとして利用することの可能である。それがまた、ここまで具体的に示されてくると、それを守るのは大変かもしれないが、信頼性もあり、期待がもてる。表紙のトップに「永久保存版」と記されているのもあながち大袈裟な言葉ではないような気がしてくる。
 放射性物質そのものは、私たちの身の回りにいくらもある。殆どすべてのものが、放射能をもっていると言っても差し支えないだろう。そうした実際についてもいくらか学習した上で、私たちは自分たちの口にするものに対しても、適切な知識をもち、適切な態度をとって行動したいものだ。




Takapan
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