本

『ホタルの光は、なぞたらけ』

ホンとの本

『ホタルの光は、なぞたらけ』
大場裕一
くもん出版
\1300+
2013.7.

 くもんのジュニアサイエンスという企画シリーズの一冊。小学生が読めるような構成になっており、振り仮名もある。配慮が行き届いており、図版も適切にあり、研究の様子の写真も刺激になる。教育的効果抜群だ。
 テーマは、光る生物。「光る生き物をめぐる身近な大冒険」という、不思議なサブタイトルがついているが、読んでいくとこれが実に的を射たコピーであるかが分かってくる。
 ただ、難を言わせてもらうと、私は、ホタルの光のことを知りたくてこの本を図書館で見て借りた。確かに、サブタイトルまでよく見ればよかった。だが、「ホタル」と「光」の文字が特に大きく太く出されており、ホタルについて子ども向けの本なら読みやすいだろう、そして子どもにも読ませてみたらどうだろうか、と思って手に入れたのである。だが、ホタルの話題はなかなか出てこない。別の、光る生物のことばかりが続いた。120頁ほどある内容で、ようやく73頁になって「ホタルの進化を解明する」とあるからいよいよ始まるかと思いきや、遺伝と進化の話が延々と続く。次の章が85頁から始まり、ここでやっと、ホタルの光るメカニズムが説明され始める。これが10頁で終わった。もうホタルは出てこない。一年のうち一ヶ月だけ光るホタルを見るのと同じように、12分の1だけがホタルに関する記述だった。
 これでは、ホタルだ、と思って手にとった子どもには疑問が残らないだろうか。シンボライズされた本のタイトルを認めないというつもりはないのだが、これでは、私もがっかりである。ホタルについて知りたかったのに、ホタルそのものについてはわずかな記述しかなかったからである。しかし、発光のシステムについてはホタルに限らず他の多くの生物がもっており、その研究からホタルの光も調べられてきているという、別の大きな背景めいた知識は得られた。それが狙いだったのも分かるが、「おいしいカレーをつくろう」というタイトルの本が、開いてみると和洋中様々な料理の作り方が書いてあったら、どう思うか、という点についての想像力もあってほしかった。
 子どものために、科学ということ、科学とはどのようにとっかかりをもち、研究していくものなのかを、具体的な状況の中で見せてくれるという試みはすばらしい。子どもには抽象的でなく、こうした実際の経験話が一番いい。科学が自分は好きなんだ、と子どもが思えるような支度を調えるような本である。途中、ノーベル賞を受賞した下村脩博士のことが説明される。この発光生物についての研究である。そうか、そこにつながるんだった、と私はそこへ来てようやくからくりに気がついた。この本の生命線は、ホタルの解説ではなく、発光原理のことだったのだ。
 そして、科学者に必要な姿勢や性格のようなものが表されてくる。そうしたことに心がけるのが科学者なのだというふうに教える。こうした教育的な指導が、なかなか一版の本にはない。あっても、抽象的で、子どもにはピンとこない。この本は、実際的な研究のひとこまを、子どもたちに分かるように示してくれる。まだまだ謎が多い、発光についての研究だが、読者の中の小学生が将来その道を新たなステージまで切り拓いてくれることを著者も望んでいる。そういう意味でのタイトルだったのだが、私はやはりまだ腑に落ちない。ホタルという言葉で釣るようなイメージを与えてしまう。
 それでも、わくわくするような自然とのふれあいや自然へのはたらきかけなど、子どもたちの立場から見える景色を示そうとする著者の働きは的確である。良い刺激を与えるのではないだろうか。「身近な大冒険」という、形容矛盾のような表現については、ちゃんと本の中で説明があるから、それを楽しみに読んでいくとよいだろう。もちろん、大人が読んで差し支えない。だいたい、このような説明の本でようやく大人も、ニュースに上がった事柄や、自然の原理のようなものについて、理解を始めるものである。「なぞ」は多いが、謎を謎として立てることができたら、科学者としては合格であろう。企画そのものは優れたものであるから、この路線は続けて戴きたいと願うのであった。




Takapan
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