本

『本は変わる! 印刷情報文化論』

ホンとの本

『本は変わる! 印刷情報文化論』
中西秀彦
東京創元社
\1,400
2003.9

 中西印刷の跡取りとしては、この事態はままならぬもの。なにしろ、本が売れない。本が読まれない上に、ネット配信の言葉は、紙の本を駆逐していく。印刷会社はどうやって生き残るか。
 印刷屋の若旦那としての姿を本に著すことも度々あるのはいいが、出版業界がどうなっていくのか、本は商売として生き残るのかどうか、瀬戸際にある現場の人間として、情報文化についての講義をまとめた本がここにある。立命館大学で、講義を行った内容である。
 活版印刷という、かつては当たり前のものが、今やすでに過去のものとなっている。活字による印刷を知っている私としては、著者が明かす活版印刷の現場の生々しい姿が、たまらなく思えた。それでも、専門的な現場の解説や雰囲気の表現は、さすがその道の人にしか書けないものだと改めて認識した。活字をどうやって組み合わせ、印刷までもっていくか、それは門外漢には分からないことである。
 しかしこうしたノスタルジー漂う解説で終わるならば、歴史書で十分である。著者は違う。今後の会社をどうするかという切実な問題を抱えている。これから生き残るために、どんな役割を印刷業界が果たしてゆけばよいのだろうか。
 著者の視点は、ずんずんとコンピュータに移ってゆく。今やコンピュータの時代で、ネットで本の内容が読める、検索できるという時代である。そこで紙に印刷し、再販の問題も抱えながら、製本を手間暇かけてゆく本というありかたは、今後も需要があるのだろうか、と傍目にも心配される。
 いったい、インターネットの利点とは何だろうか。
 そんな疑問に対する返答を、ときにはすっきりと、ときには外から見てもどかしく、著者は描き続ける。私はこの本の中で、なるほどすごいと言わざるをえないサイトを紹介してもらった。しかも必要十分な仕方で。
 マルチメディアへの幻想は、CD-ROMという形ではなく、インターネットというあり方で継続され、今後もどうなるか予想がつかないような状況になっている。予測不可能でありながら、本という形態がどのように保たれていくのかも考えていかなければならない。著者は、「オンデマンド印刷」というスタイルの現状とその発展性について力説する。必要に応じて少数でも本にしていけるというこのスタイルは、今のところかなり有望な形なのだそうである。だがそれも、今ある形から一転二転となる可能性が高いという。
 どうなるのだろうか。本マニアならずとも、これはわくわくする問題である。しかし、わくわくという傍観的な見方でなく、経営と家計のすべてを背負う、印刷会社の専務としての著者は、必死でこの問題を見据えようとする。
 ああ、それは他人事ではない。そして、本好きには、こうした本は実に楽しい。パソコンを扱う人間としても、こうした本は実に楽しい。
 妙に歴史に通じた学者が書いても、このように面白い本は書けない。この「本」は、間違いなくかつてのスタイルの「本」として生き生き輝いている。現場の人間が、生きた本をどうやって生み出すか模索し苦労し続けている中から、言葉が注ぎ出されたのである。
 わくわくしながら、私は読み進んだ。




Takapan
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