本

『本当の戦争』

ホンとの本

『本当の戦争』
クリス・ヘッジズ
伏見威蕃訳
集英社
\1890
2004.6

 背筋が凍る本である。
 写真は一枚もない。すべて活字でできている。
 戦争が悲惨だということを、くどく、あるいは派手に、謳い上げた本ではない。形容詞は極力使わないようにした、という著者の言明のごとく、文は淡々と続いていくだけのように見える。
 だが、修飾のない淡々とした表現ほど、私たちの想像力を触発するものはない。もうたまらないほど、戦争がえげつないものであることが、頭の中をぐんぐん支配していってしまうのである。
「すべての人が戦争について知っておくべき437の事柄」とサブタイトルにあるように、戦争についての素朴な疑問が沢山載せられている。議論をしかけるのが目的ではなく、一問一答で単純な事実を積み重ねていきたいという目的で作られたかのようである。つまり、Q&A形式で綴られていく。
 アメリカ軍の実情についての質問も多いが、果たして人を殺せるのかといったメンタルな面についても項目が多い。いや、まずは戦地での危険や、重症を負ったときの経験談、死ぬときにはどんなふうに感じていくのだろうか、といった、経験者がもはや証言できないような事柄が、ぐさりと魂に突き刺さる。
 戦地で捕虜になるとどんな拷問を受けるか、といった、現場の人にとっては切実な問題も取り上げられ、しかも淡々と答えられていく。よけいな説明やまわりくどい述べ方は、少しもなされていない。
 信心についての114番も面白かった。戦闘を経験すると、「前より信心深くなることはあるでしょうか?」という質問である。解答は次の通りであった。「その可能性は高い。戦争は信仰を強めたり、あらたに神を信じるきっかけになる。暴力がいたるところではびこり、だれが死にだれが生き残るかわからないので、戦争に参加する多くの者がより大きな力の存在に目覚める。」
 声高に戦争に反対する、あるいは戦争を美化して宣伝する、そういった動きが、現実の戦争論の殆どすべてをなしている論争に対して、この本は、ただひたすら短い説明で、事実を連ねて行く。感情を入れずに事実を述べていくことが、何よりも恐ろしく感じられてならなかった。戦争に反対する運動を起こすなら、この本を真面目に人々に読んでもらうことを望んだっていい。派手さはないが、背筋がぶるぶる震えてくるような叙述に出合うことだろう。
 ことに、戦争を美化し賛美する方々には、ぜひ味わって戴きたい本である。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります