本

『本について授業をはじめます』

ホンとの本

『本について授業をはじめます』
永江朗
少年写真新聞社
\1600+
2014.9.

 子どものための本である。しっかりした装丁に、行間が十分にある大きな文字。学校の教科書を読んでいるような感覚である。まさに、タイトルのような「授業」である。哲学者である著者が、本についてもつ知識を、整理し順序立てて説明してくれた。そこは実にスムーズであり、無駄がない。限られた短さの中で語るとはこういうことなのだ、と教えられる。
 この本は「ちしきのもり」というシリーズの一つであるという。良い内容だ。
 まずは、本ができる過程について語る。それから、印刷の歴史や、気になる電子書籍の存在と行方についても触れる。結論的には、紙の本が駆逐されてしまうことはない、というものだが、それはもちろんそうだろう。パソコンにより紙が消費されなくなるなどという懸念がとんでもない間違いであったように、電子書籍により本が消えるなどということも、考えられないことである。最後に著者は、図書館や図書室のことや、読書の勧め、さらに未来には、今考えられないようなとんでもない面白い本の世界があるかもしれない、と子どもたちに夢を見てもらおうとする。そんなことあるはずがない、などと決めつける必要はない。かつて誰が、携帯電話のこれだけの普及を現実と考えただろうか。調べ学習が、検索サイトですぐに終わるなど、想像さえしていなかったに違いない。どんな奇想天外なアイディアだって、本についての夢や希望を語り合うことは悪いことではない。著者が自分で想像したのか、それとも何らかのアンケートなどの調査をしたのかは知らないが、よくぞこんな夢のある頁が描けたものだと感心する。そして、本を書くということへの誘いまで付けて、本を愛する著者の、子どもたちへのメッセージが終わる。
 大人がこれを読めば、おそらく小一時間て終わるだろう。子どもたちはもっとかかるだろうか、大人がすんなり読めるからと言って、他愛もない内容であるとか、全部知っているよ、ということであるとかいうことはない。私なども、「へぇ」の連続であった。やはり専門的な領域に関わる人でないと、印刷技術の違いさえ分からないのである。それを、子どもにも分かる理屈で明晰に述べられているというわけで、この本の著者の力量が窺えるものである。分かりやすく説明すること、伝えることは、かなりの技術が必要になるのである。
 電子書籍のメリットも当然ある。未知数でもある。これがどう普及していくのか、変化していくのか、それを見届けるのが今の子どもたちの時代だ。著者は巻末でそれを楽しみにしている。また、子どもたちに期待をかけている。次は君たちの文化だ、と。その未来の文化に関わるという仕事が、ここにある。なんともやりがいのある仕事ではないか。本について、子どもたちに託す。この託し方が重要である。「ちしきのもり」に、大人たちは住んでいるだろうか。どうも、スマホでやたらゲームばかりしている大人たちを見ると、本がどうとかいうことももちろんだが、そんな森を焼き払い、潰しているばかりではないかと危惧する。現に若い世代も、本を読もうとしない率がさらに拡大しているようだ。読む人はやたら読むが、全く読まないという層が拡大している。「ちしきのもり」が破壊された後に拡がる荒野には、何か残るのだろうか。そんな夢は、見たくないものだと願う。
 本を愛する子どもが増えてほしいと、私も切に願っている。自分が「考える」ために。そのためには、知識がやはり必要なのである。




Takapan
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