本

『本を通して絆をつむぐ』

ホンとの本

『本を通して絆をつむぐ』
秋田喜代美・黒木秀子
北大路書房
\1995
2006.8

 北大路書房という声を聞いて、懐かしい京都を思い浮かべた。
 本の副題は「児童期の暮らしを創る読書環境」というもので、「読書コミュニティのデザイン」という大きなプロジェクトの中の一つの活動報告ともとれる内容である。
 様々な場所での様々な試みが、分断されつつレポートされる内容であるため、統一的な見解や筋道というものを読みとることは難しいけれども、逆にそれらが、それぞれの地域でどのように活かされていくのかという実例を見るような思いさえ現れてくる。
 子どもたちの生き生きとした眼差しをなんとか伝えようとしている、現場の声が印象的である。単純に、マスコミがセンセーショナルに語る読書離れという言葉に惑わされるとか、よく根拠の分からない数字で以て勝手な推測をするとかいうのでなく、私たちは、身近に触れあった子どもたちの伊吹を大切にしたい。
 小学校で、絵本の読み聞かせボランティアに、私も参加したことがある。私の場合は、仕事柄、子どもたちが絵本に対してどんなにキラキラした眼を向けるかなど、それなりに知っていたから、絵本を読む際の基本を再び明らかにしてもらったら、やりにくいということはなかった。しかし、すべてはライブである。こうすればすべてがうまくいく、というふうなメカニカルな仕組みで人の心が操れるわけではない。
 その点、現場におけるレポートである本書だと、実際に私たちが現場に出向くことがなくても、子どもたちと本という組み合わせの現実の場のことを、垣間見ることができそうである。これは、たしかにある学校で起こった出来事なのである。
 学校や病院など様々な場所での読み聞かせの実際をあますところなく伝えてくれているような本であるが、実例の紹介がたくましくて、理論的にどのような原理で子どもたちが本を見つめているか、などについては、必ずしも分かりやすく幅を取って説明してあるわけではない。
 ただ、これらはスキルであるとは考えたない。また、大人が本も読まずケータイに興じているような中で、子どもたちに絵本での体験をさせようなどという、利己主義なあり方をとりたくはないと思う。大人たちが、本を如何に愛しているか、それこそが、子どもたちに伝わる唯一のものであるかもしれない。ここにレポートされているような試みが成功しているのは、その方法がよかったというのもあるだろうが、多分に、本が好きな大人たちの姿を子どもたちが感じたゆえに、子どもたちの本を好きになった、というような背景が存在するのかもしれない、と思う。




Takapan
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