本

『本をとおして子どもとつきあう』

ホンとの本

『本をとおして子どもとつきあう』
宮川健郎
日本標準
\1470
2004.11

 絵本読み聞かせの本をとお願いされた著者は、お母さんのために、という依頼に反して、即座に、お父さんのために書きましょう、と返事をしたそうだ。
 ちょっと見ると、どこがお父さん向きなのですかと尋ねたくなる。お父さんの立場に媚びたような説明は、ほとんど見られない。ただ児童文学に関する理論めいたものや、絵本の紹介などを詳しく綴っていることが目立つ。
 だが、だんだん私も気づいてきた。お父さん相手だからこそ、こうしたバックグラウンド的な解説を滔々と続けているのだ、と。忙しいお母さんだったら、ああしてこうしてと具体的な指示のほうが小気味良いかもしれない。しかし、いざ休日、そしてそのときに子どものために本のことを考えてみたいと思い立ったお父さんであれば、そもそも絵本とは何だ、というふうな問いを自分の中でひとつ踏みしめてゆかないと、前へ進むことができない。己の行動に、理論的背景が欲しいと思う面があるかもしれない。
 サブタイトルにあるように、「日ようびのおとうさんへ」という文句を抜きにして、お母さん方も、この本を頼りにして戴きたいと私は思った。大学教授として理論を比較吟味し、実践の中で培ってきた、子どもたちへの軟らかな眼差しが、本の随所に現れている。たんなる絵本や児童文学の鑑賞についてのエッセンスとしてのみ読んでも、十分味わい甲斐のある本なのである。
 しかも、たんなる現場主義だけに終わらない。自分の触れあった子どもはこうだった、と構えられても、そこには様々な要素が隠されている。理論的バックボーンも、あるに越したことはない。
 とはいえ、私は、むしろ最後のQ&Aが実に楽しかった。短いスペースの中に、講演会などでよく質問されることがFAQとして凝縮されている。読み聞かせについての一口お答えがある。お急ぎの方は、書店で、この最後のコーナーだけを読まれても、十分収穫があるかもしれない。




Takapan
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