本

『やる気も成績も必ず上がる家庭勉強法』

ホンとの本

『やる気も成績も必ず上がる家庭勉強法』
齋藤孝
ちくま文庫
\735
2012.11.

 なかなか刺激的なタイトルである。やる気が上がる、という言い回しにちょっとひっかかりがないこともないが、まあとにかく「必ず」というような表現は、近年の薬事法では使えないタイプのものである。
 まわりくどくなく、一読して分かりやすいというのが、このような教育法についての本が売れる秘訣ではなかろうかと思う。そして、大きな反発心を抱かせないようにすることと、なにぶんにも親の立場の人の心をくすぐることである。今の親はだめだ、と本当のことを書いてしまうと、そっぽを向かれる。しかし、すべて今のままでよい、というのではお金を出して買ってもらえない。そこで、「なるほど」と若干意外な発想をぶつけることもして、それでいて、心のどこかで親が、こうしたほうがよいのではないか、と思っていたような点をしっかり肯定してやる、という方法をとるのがよいのではないかと思われる。
 そういう点で、この齋藤孝の本は、優れている。売りどころを知っていると言える。しかも、NHKの教育番組で、一定の成果を上げており、その教育観が肯定されている前提があるものだから、思い切って自分の提案を出していくこともできる。
 そんな裏話的なことは、まあどうでもいいことだ。ここにあるのは、勉強のやる気を起こさせるアイディアである。具体的な教え方や内容についてを期待してはならない。ここにあるのは、教育理念のようなものである。つまり、素朴すぎて、案外親が押さえていないような基本、「なぜ勉強しなければならないか」という点から基礎付けようとする。役に立つから、そんな功利主義だと、別に役立たなくてもいい、という子どもの反論を肯定することにもなるし、なにぶん、自分にとり役立たない勉強はしなくてよい、という根拠付けに貢献していまう欠陥がある。なにぶん、親自身が、なぜ勉強しなければならないか、ということなど、実のところ考えたこともないのである。
 そこで、その点への入れ知恵からこの本は始まる。しかし、哲学的な議論をかますつもりなど毛頭ない。結局のところ、功利主義的目的に終始してはいるのだが、それをもっと防備する立場から、安定させようとする向きに働く知恵が、最初から並べられていく。そして分かりやすいことに、具体的に、子どもにゲームをどのように制限させるか、そのために説得する方法といった実際的なことを、次々と明らかにしてくれるのだ。
 このような教育法のノウハウを、悉くそのまま実行する人などはいないだろう。だが、部分的に使おうとすると、成功しないのも尤もなことである。基礎付けをすると、あとはその上にのっかっている方法はすべて成功する予定なのだが、実際はなかなかそうはいかないのだ。というのも、やはり基礎付けが、筆者の思うように私たちができないからである。やはり、著者と同程度の学力や学歴のある親、あるいは、同じような知的ステイタスをもったり、自らが勉強というものに好意をもってきたような親でなければ、こうした子どもの教育についてなかなか本の通りにうまくいくものではないだろう。
 ただ、気をつけていただきたいのは、学歴のない親には教育ができない、などという意味では断じてない、ということである。必要なのは、学ぶことについての謙虚な姿勢である。自ら学ぶことが環境的に十分でなかった親は、せめて、学ぶことは大切なことだ、ということをしみじみと感じ入り、日々そういう思いで生活していくことである。親が尊敬しないことについて、子どもが敬意を払うことは難しいからだ。家で学校の先生をさんざんバカにする発言をしておいて、先生の言うことを聞きなさい、というのは矛盾しているということだ。これは、私も気をつけなければならないと思う。学ぶこと、教える人への敬意は必要である。親自身がさしたる学校生活を示せなかったとしても、学ぶ姿勢についての誠実さは、子どもにも伝わる。仕事においても、家庭においても、ひとつひとつのことを大切にする生き方が、親自身に問いかけられているのではないかと私は思う。
 ハウツーの本として、屈指の作ではないかとも思われる本であるが、現場における扱い方には、十分注意をしたいものであると私は感じる。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります