本

『福岡の休日』

ホンとの本

『福岡の休日』
川上信也
海鳥社
\2100
2006.4

 小型の写真集。福岡の関係者でなければ手が出ないかもしれないが、地元の書店では平積みはもちろんのこと、特設コーナーも作られていたりする。
 写真を見て、言葉に詰まるということは、時々ある。だが、言葉も胸も詰まり、えもいえぬ感動を注がれるというものは、そうあるものではない。
 特別な美術品や特別な花風景が刻まれているわけではない。ありふれたアジサイやハマヒルガオでしかないはずの写真が、心に迫ってくる。ただの雪の夜、名も知らぬ木の実の写真が、胸を打つ。なぜだろう。
 私たちは、いかにも、のつくりものに、どこか辟易としているのではないか。飾り立てたもの、セットされたものにではなく、どこにでもあるようなもの、私たちが日々触れている日常のものの表情を――あるいは、生命を――、求めているのではないか。
 どこにでもあるようなものにも、一日のうちでわずかな時間、とんでもなく美しい光を受けて示すときがある。その事実を、この写真集は改めて教えてくれる。こんな夕焼けが、私たちの日々の中に、一瞬であるかもしれないが、たしかにあるのである。私たちは、それに気づくだけの、豊かさを有しているだろうか。この波のざわめきを、この川面のささやきを、聴いているだろうか。
 名の通った歴史的建造物でなくても、カブトムシを手にする小学生の笑顔が、自分にとってはいっそう貴重なものとして感じられても、いいのではないだろうか、と思うようになってくる。そんな本である。
 ほんとうに、美しい写真だ。




Takapan
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