本

『まんがで読む はじめての保護猫』

ホンとの本

『まんがで読む はじめての保護猫』
猫びより編集部編
日東書院
\1300+
2020.2.

 ふとしたことで、地域猫との関わりをもつようになった。保護猫と同一視はできないが、そこから譲渡会も行われているし、無関係とは言えない。
 類書が最近多くなった。関心が高まっているのであろう。虐待については言うまでもないことだが、誤った思い込みや知識から、可愛がる思いが逆影響を与えているということもある。啓発は必要である。
 猫とは一時縁のあった私であるから、触れあったことがない人に比べれば、それなりの知識はあったのだが、実際に責任をもって飼うとなると、全く知らないことがたくさんあるわけだ。本当に飼うかどうかは別として、猫を可愛いと思う人には、猫のことを知るためにも、このような本はお薦めできる。
 特に本書は、類書の中でも質が良いと思った。こうした本は、法律などについても詳しく書かれたものや、飼い方や手続きについて懇切丁寧に書かれたものもある。だが、あまりに詳しいというのも、どこがポイントなのかを、知らない側からすれば掴みにくい。他方、コミックエッセイが中心で、楽しく分かりやすく教えてくれるものもあってよいものだが、えてして作者の個人的経験ばかりが先行し、一般性がない場合が多い。実際にではどうしようか、と読者が思ったときに、何をすればよいのか分からないということになる。
 そのような観点からしても、本書は優れているように見える。コミックエッセイもあるし、一定の経験に基づいてはいるのだが、それについて比較的小さな文字で、詳しい解説や多くの人の声も併せて見ることができる。こうして、親しみやすさと一般的な知識とを重ねて読み進めることができるのである。
 そう、これは猫についての雑誌の編集者が携わっているものである。雑誌には、ただ特定の立場からの考えの押しつけをするような暇はない。読者に分かりやすく伝えることと、読者からの意見や相談が誌面を作る。それがいわば総力を挙げてひとつの本をまとめあげるのである。信頼できないはずがない。あとは、その作り方だけである。本書は、その作り方がうまかっただろうと思う。
 傷ついた保護猫「ごまお」が家にやってくる。まず、エイズキャリアである。これだけで、知らない人は一歩引くかもしれない。人の場合と比較して、猫のエイズは、ありがちなものとして捉えるべきであることも、ちゃんと教えてくれる。私の知る猫カフェでも、エイズキャリアの猫たちはそうでない猫たちと別室に集められていたし、係員がそのことを話してくれたので、安心できた。また、この「ごまお」は、片目を失っている。そして先住猫がいる中で、むしろ「ごまお」のほうはでんと構えているのに対して、先住猫のほうがナーバスでなかなか立ち直れない。こうした猫同士の関係についても、物語が伝えてくれるので、ただの読み物としても面白い。
 その他の猫を保護する例も物語として描かれているので、いろいろなパターンの出会いやふれあいについて、知ることができ、よくできていると思う。
 現実に保護した場合、あるいは何らかの形で譲り受けたときも、トライアル期間というものがあるべきで、その時の物語も含めて、諸注意が伝わってくる。実用的であることこの上ない。失敗例もあるし、乗り越える例もある。これだけの薄い本にしては、本当に多彩なメッセージと知識をぐいぐいと迫られる思いのするものであった。
 そして、猫を取り巻く環境や私たちの社会についても、さりげなく大切な視点を提供してくれる。こうなると、さすが「雑誌」だと驚くばかりである。説明を詳しくする頁にも、効果的なイラストが多用され、見やすいこと請け合いである。
 ひとつだけ、注文をつけることがあるとすれば、索引である。索引があれば最高だった。もちろん、目次でも、知りたいことが概ねどこにあるか見ることができるのだが、本書は、ただの入門書として知識を与えるというばかりでなく、実際に猫を飼い始めたときに出会うトラブルのときに、どうしたらよいか、という意味で開きたい本だと捉えたとき、それを素早く見つけられるような索引があればよいと思ったのだ。何かと頼れると思ったからこそ、いざという時に使うために、たとえばウイルスやワクチンについて、どこかに書いてあった、と思ったときに、それが開けられたらよいと感じたのである。
 猫を大切にするのはよいが、困っている人も世の中にはたくさんいる。人も助けたいとは思う。だが、猫でも犬でもよいのだが、人間のパートナーとしての動物に関わることは、人を大切にする思いに反するものではないと私は思っている。本書はそうした点に踏み込むことはないが、そこから先は、読者が一人ひとりまた考えて行くようにすればよい。何かを大切にすることは、何をも大切にすることへの始まりであってほしいと願う。




Takapan
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