本

『歴史としての聖書』

ホンとの本

『歴史としての聖書』
ウェルネル・ケラー
山本七平訳
山本書店
\4600+
1958.11.

 実に古い本である。およそ60年前の本として手に入れた私であるが、その時代に4600円するというのは並大抵のものではない。昔の岩波書店の専門書ふうな、函入の権威ある装丁であり、483頁を数えるから、確かに立派なものではあるが、それにしてもこの値段は、今これで売られていても、わりと普通の価格に見えてしまうから恐ろしい。
 そしてまた、一部で非常に内容の評価の高い本であることも知ったから、ぜひ読んでみたいと思うようになった。そもそも、これを私は、丸善の合同古本祭りか何かで見たのであるが、そこでの価格が少し私には高かった。ただ、中身を見て、これは面白いと思ったため、申し訳ないのであるか、その場でスマホで調べたところ、別ルートで安く買えることが分かったために、すぐにそちらに注文したという経緯がある。
 山本書店は、山本七平氏個人の志の中でつくられた書店である。戦争を通じてキリスト教にいて深い思いを貫いた氏が、ユダヤ文化を豊かに伝える思いで良い本をたくさん出版してくれた。自身も、偽名でベストセラーを出したことは有名である。こうして、イスラエルの文化や歴史について渋い出版を続けていた中で生まれた一冊が、この歴史の中に証拠立てられた聖書の真実の証言としての研究所であった。
 やや護教的であると言われるかもしれない。しかし、歴史的発見や発掘そのものを、むりやりこじつけることはできない。本書は、歴史的発見を、聖書の記事と合致させていく過程を多く描いている。構成は、聖書の記事の歴史的順序に従って、それが考古学的に見出されていく時のエピソードやその土地の情況などを、時に物語的に、時に聖書の世界の歴史を教授するように、あるいはまた、ドキュメンタリー的に現地を探るかのようになっており、情報とともにわくわくする思いを私たちに提供してくれる。
 もちろん、その後の時代の進展に伴う、新たな知識もいろいろとあろう。中には、当時の常識が覆され、いまでは全く違う考古学的な証拠や学説が真実とされているケースもあるものと思われる。しかし、名著とされる本は、もうそれだけで、読み応えのあるものとなっている。だからこそ私の入手したこの本は、1980年の第21版と息が長い。それだけ評価され、要請されてきたのだろう。類書は、ありそうで、なかなかない。最近でこそ考古学的な学問的成果を紹介した優れた本が増えてきたが、ここまで楽しませてくれる本はそうそうない。
 古書として、探せばいまは格安でも見つかる。古典的名著なのかどうか私は知らないが、比較的安く入手する機会があるならば、手を伸ばしておいて損はないと思うのだが、如何だろうか。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります