『平原綾香と開くクラシックの扉』
平原綾香
東京新聞
\1300+
2017.7.
本書刊行時点で、デビュー14年。もうベテランの域に入っていることに驚く。デビュー当時から注目していた。独特の歌唱もだが、サックスという持ち場、バレエやクラシックの教育を受け、そして一流ミュージシャンの父親。話す物腰も含めて、ただの歌姫などと呼んではいけない、音楽の申し子であると言える。
彼女の「スタートライン」という曲は、私の心にグサリと刺さってる。CBCラジオ・テレビ「こどもを救おう!未来を守ろう!」キャンペーンソングとして生まれたこの歌の歌詞は、書きながら泣きじゃくっていたと本人も言っていたほど、鮮烈なものだった。
東京新聞の依頼があったという。クラシック音楽を初心者向けに紹介する連載記事を、担当者は平原綾香に任せた。
章毎に紹介すると、「映画」に使われた音楽、「文革」とつながるイメージをもつもの、「マンガ」や「ドラマ」に使われた音楽など、多くの人が関心をもつ角度から、クラシックの曲そのものを知らせてゆくことになる。私は個人的に、そこにクライスラーの「愛の悲しみ」が「四月は君の嘘」によって紹介されているのを見て、この本を買おう、と決めた。マンガの方に入れ込んでいたためだ。そしてその解説も、見事だった。
その後、「季節」の色濃いクラシック音楽が並ぶと、「舞台」と「フィギュアスケート」でよく知られた曲があって、様々な関心をもつ人のアンテナに引っかかるように書かれている。そして最後には、平原綾香個人の思い出深いクラシック音楽が並ぶが、そこにはかなりポピュラーなものばかりがあるので、読者には決して気取ったものだとは思われないことだろうと思う。
ここにあるのはヨーロッパの作曲家によるものばかりではあるが、作曲家たちを呼ぶときに、全て「さん」を付けているところである。「バッハさん」「モーツァルトさん」という具合に、いま隣りにいる人を呼ぶように書いてある。これだけで、ずいぶんと文章が和むのだから不思議である。
あたたかな文章、誰をも傷つけない優しさ、それでいて音楽の魅力をたっぷりと届けてくれる。新聞紙上でももちろん素晴らしい色彩を醸し出すものだが、こうしてひとつの本となってまとまったとき、きっとステキな力を発揮してくれることだろう。たとえ少々クラシックに詳しい人であっても、改めて音楽の魅力というものに気づかせてくれるのではないか、と思いたいし、そもそもクラシックについてそうたくさんのことを知らない人であっても、なんだろう、と関心を呼ぶようなこともあるのではないだろうか。それも、広く浅く。それでいいのだ。
私は、この本をちまちま読むことに決めていた。家にはアレクサと呼べばいろいろ答えてくれる者がいる。そう、これらの曲をアレクサにかけてくれと言いながら、その音楽を背景にして、一つひとつの項目を読んでゆくのだ。だから、一日に一つや二つという項目であってもよい。ゆっくりと解説を見ながら、鑑賞の手引きとしつつ、その曲を味わってゆく。本書では、音は届けられないのがネックだ、と担当者が困っていたが、いまの時代は、このようにその曲を手近に引き寄せることも容易にできるのだ。この点を、本書でアピールすると、もっと手に取ってもらえるのではないか、と密かに思っている。

た
か
ぱ
ん
ワ
イ
ド