本

『手塚治虫傑作選「瀕死の地球を救え」』

ホンとの本

『手塚治虫傑作選「瀕死の地球を救え」』
手塚治虫
詳伝社新書093
\787
2007.11

 作品毎の本も気になるが、あまりにも膨大である。その点、あるテーマに沿って集められていると、そのひとつのテーマについて考えるひとときをもつことができるという点で、ありがたい。もちろんそれは編集者の意図に基づくものでしかないのだが、手塚治虫ファンにとっては、それでも十分である。あるいは、もっと他の作品の中にも、この環境問題についての手塚の思いを読みとることができるかもしれないし、あれも載せてほしかった、という希望が生まれるかもしれない。
 ブラックジャックでさえ、最初は「恐怖コミックス」というタイトルで単行本が売り出されていたのが、途中から「ヒューマンコミックス」に変わった。そして、いつしかそのあくどい金集めが、自然環境保護の目的であるというふうに明かされ、それをネタに狙われるというストーリーも現れた。そのせいか、この本にも、ブラックジャックから二つの話が選ばれている。
 単純に、自然保護が大切だとか、地球を救えだとか、言っているわけではない。人間にはあらゆる側面があること、それぞれの利害がぶつかっていること、それでも、このままではいけないのではないかという危機感が、誰の心にもあるだろう。それがたんなる虞でなく、物理的に襲ってくるところに、この環境問題は切実さがある。しかも、こうして私たちがただ生きているだけで環境破壊であるという意味を含むことについて、気がつけばたまらなくなるし、私たちの子孫に対する犯罪行為であるという認識も、比較的新しい気づきであるが、弁えなければならない視点である。
 コマの小さな懐かしいタイプの鉄腕アトムには、若い手塚から、自分の言いたいことがふんだんに現れていたように思うが、だんだん後になると、読者の心の中にこそその言いたいことが浮かんでくるように制作されており、円熟味を出している。そして、よりシンプルに作品が作られていく。これは、時代の要請であるのかもしれない。
 この新書では、このようなシリーズが時折生まれている。科学に、歴史に、哲学に、そして宗教にと、人類のあらゆるテーマをマンガという舞台で演出し続けてたこの希有の天才の作品を、私たちはもっと味わっていい。今もなお、その輝きを失うことは全くないと思うのだ。読者が、そこから自分の思索を始めることができるという意味では、間違いなく。




Takapan
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