本

『火の鳥・公式ガイドブック』

ホンとの本

『火の鳥・公式ガイドブック』
監修・手塚プロダクション
ナツメ社
\1575
2005.6

 ついに出た。手塚治虫の『火の鳥』を総括するガイド。
 作品を味わうということにかけては、原作を見るしかないし、そこから読者各人がどのように受け止めていくか、ということで、芸術はよいはずである。しかし、背景を知る者、その意味を噛みしめる者が、囁くように、マンガの表向きのところでは現れてこないことを話してくれるということは、魅力でもある。
 それぞれの「編」のストーリーはもとより、キャラクターに十分な解説を割いたのは、この作品の本質からして納得できる。全体のストーリーもさることながら、人物像が、生命というテーマに相応しい描かれ方をしているからである。個が描かれることにより、全も活かされる。それが生命の相ではないのか。
 もちろん、マニアックな指摘もあり、時代背景と共に説明がなされると、なるほどとうなずける場合もある。
 そして最後には、これまでも『火の鳥』が復刊されるたびに記されていた、作品内での差別表現問題に対する断りが語られている。誠意ある語りであるように思う。
 少年期、親類の家にあったこのシリーズに私は心を奪われた。私の原点の一つだと言ってよい作品であり、私にとっては、依然として古びることのない輝きをもっている作品である。また、そうした方は少なくないと思う。
 それにしても、心に巣くうとはいえある意味で小さな疑問・テーマに過ぎなかったようなものが、ここまでの大河ドラマとして描かれていくなど、やはり手塚治虫の才能たるもの、想像を絶するものがある。亡くなったときの新聞の見出しに、「巨星墜つ」とあったのを思い起こす。こんな表現で語られる人は、その後、現れるのだろうか……。




Takapan
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