本

『光を仰いで』

ホンとの本

『光を仰いで』
朝岡勝
いのちのことば社
\1600+
2021.12.

 コロナ禍の中で出版へと至ったことは間違いない。そのすべての願いが、コロナ禍に結びつけられる必要はないが、間違いなく半分は、コロナ禍における教会に注がれる神の力を思っている。残りの半分は、やはりその影響の中であることが多いであろう、個人の心に向けてである。「おわりに」で著者はそのような意味のことを記している。
 2021年のクリスマス期に語られたメッセージが、本書の殆どを占めている。それぞれは短いものであるから、語られたものそのものの収録であるというよりも、本にする体裁のためにまとめられた感が強い。大切なエッセンスを詰めたもので、アドベントを辿るように、12月1日から25日までをカウントしつつ、短いメッセージが続いている。
 コロナ禍における教会での礼拝メッセージを、力をこめて出版したものに、奥田知志牧師の『ユダよ、帰れ』がある。だが本書は、これとはずいぶん趣が異なる。奥田牧師の場合は、ホームレス支援活動を本気で行っているという背景があるためか、非常に具体的であり、現にいま人々がどのような痛みを負い、何が問題であるのかについて、手で触れるかのような感覚を与えてくれるような、比較的長いメッセージが集められている。実際に礼拝説教で語られた、たっぷりとした内容である。
 こちらのほうは、もっと抽象的である。聖書解釈を、聖書に描かれた内容に強く寄り添いながら、そこに現れたイエス・キリストの恵み、それを信じることの喜びなどを語るものとなっている。具体的な事例が紹介されるというふうではない。むしろ、聖書や、キリスト教会の歴史について、様々な知識を提供してくれるものと考えたほうがよい。
 そのため、全体として、コロナ禍を連想させるということは、あまりないと言ってよいだろうと思う。つまり、純粋にクリスマスを待つ思いと信仰とで繙いていって十分価値のある一冊であると言えるだろう。
 ただ、特徴的なことは挙げてもよいだろうが、そのクリスマスのメッセージのために備えられた聖書箇所が、ベタではない、というところをお伝えしたい。もちろん、マタイやルカのオーソドックスな場面からも選ばれている。ヨハネ伝の最初やイザヤ書も必要だろう。だが、マルコによる福音書のクリスマスとなると、それは何だろうと思わないだろうか。冒頭の、洗礼者ヨハネの箇所が「クリスマス」であるとはどういうことなのか、それは読んでのお楽しみといこう。
 他にも、ローマ書、エペソ書、ピリピ書、コロサイ書となると、どこからでもキリストの訪れについて私たちは教えられ、味わい、信じ委ねることができるのだということについて、新たな発見があるのではないかと思われる。終わりのほうでは、黙示録から幾度か学ぶ。ヨハネの黙示録というのは、これからのことだと考えられている。すでに地に来たキリストのことを直接描くものではないはずだ。しかし、キリストが世に来るという意味では、どちらも変わらない。地に訪れるキリストを待つことについて、全く別物だと言えない面があるのだ。
 全体的に、福音的であり、地道な信仰生活を送る人には、心安らぐメッセージであると言えるだろう。奇を衒うようなこともなく、信仰的には当たり前だと言えるようなことが綴られている。その意味で、特に目立つメッセージがあるというようなウリではないと思う。だが、神と出会い、神に救われた者であるならば、その言葉の一つひとつが、魂を養うために必要な命が、行間からですら滲み出てきて、エネルギーを与えられることは請け合いである。心が豊かになり、命が漲るような経験をすることだろう。特別なごちそうや、刺激的な食べ物ではないけれども、確かにこの身の栄養になるものが、淡々とこれほど一冊全体にわたりこめられている本である。その意味で、本書の執筆には、祈りがこめられていることが伝わってくる。
 著者は、実に多くの本を読んでいる方である。そのSNSの記事から、それは容易に想像できる。信仰書もそうだし、神学書も確かに多くご存じである。だが、そんな本の受け売りをやろうという意図は全く感じられない。ここにあるのは、様々な著者との対話を通して、そして何よりも神との祈りという名の対話を通して、育まれた自分の魂の言葉、自分の信仰というものを、改めて言葉について連ねているという姿勢である。それは私の好む姿勢である。地味ではあるが、著者の祈りと信仰を受け取ることができる、恵み豊かな本であると思う。私は復活祭を前にした時期に読んだ。なかなか入手できなかったのである。誰も、何も冬を待つ必要はない。毎月読んでもよいではないか。夜のデボーションに相応しいとも思う。そしてそれぞれの読者がいつでも、この光のもとに集まればよい。ここで共に同じ光を仰ごうではないか。




Takapan
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