本

『古代エジプト人の世界』

ホンとの本

『古代エジプト人の世界』
村治笙子
仁田三夫写真
岩波新書922
\1050
2004.11

 カラー版であるために、写真が豊富で、そのために価格が通常の新書よりも高めに設定してある。しかし、この本はやはりそれだけの写真の価値がある。なかなか見られないピラミッドの中の写真が多く、それも実に美しい。
 それはともかく、サブタイトルに「壁画とヒエログリフを読む」とあるように、この本は、エジプト古代文字をまさに「読む」作業が綴られている。ただそれは系統的な学問的営みであるわけではなく、それを踏まえた成果を披露してくれる、まさに新書に相応しい構成となっている。私たちは、安心してそれを楽しむことができる。
 まるで、エジプト紀行を楽しんでいるような気持ちになってくる。現代のエジプトを歩きつつ、そこから古代に思いを馳せるという、ごく普通の旅行者になりすまして、そのうえごっつう手の込んだガイドに包まれているような感じだ。
 その旅の楽しみを潰すような、野暮な真似は致すまい。細かい点はともかくとして、ピラミッドやエジプト文明に少しでも関心がある方なら、最後までお楽しみ戴ける本であろう。
 ただ、これらのヒエログリフの解説をしながら、著者自身もこのようなことを語っている(71頁)。エジプト人たちは、神々とのコミュニケーションのために、つまり神々に聞いてもらうために、かの文字を刻んだ。だから、数千年後の人間たちが掘り起こしてああだこうだと解読するなど、ゆめにも思わなかっただろう……。
 私は、古代遺跡の発掘や、化石の発見などのニュースに、実はつねにそのような感慨を抱いてきた。著者のこの視点に、私個人も親しみを覚えたものである。




Takapan
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