本

『編集とはどのような仕事なのか』

ホンとの本

『編集とはどのような仕事なのか』
鷲尾賢也
トランスビュー
\2,200
2004.3

 この本のタイトルの付け方そのものが、本の中で暴露される。著者は、キヤノンを退社後、水商売と言われた講談社に入社。その後週刊誌の編集部に始まり、やがて現代新書の編集長を務め、選書メチエを創刊した。編集の酸いも甘いも噛み分けた人である。私たち門外漢がイメージする編集者の仕事を、その内実から冷静に、そして興味深く語ってくれる。
 それは、本を愛する人ならば、誰もが首を突っこみたくなるような言葉である。コストの問題、本の著者への働きかけからつきあい方などの内幕が悉く明らかにされる。そして、現代は出版が危機にあるとも言われるが、実のところどうなのか。どのようにそうだと言われるのか。良い本を作れば売れるというものでもないが、その理由の一つには、読者の読書力の低下もあるという。書店にどのような形で本が配本され、また回収されていくのか、編集者はどんなに苦労しているのか……。内部を知る人であるからこその眼差しが、こんなに生き生きと語られることも、実は少ないのではないか。
 テレビ番組では、安い制作費で視聴率を稼ぐために、タレントをスタジオに呼んで、互いに芸能界の裏話を語らせるというパターンがある。台本もほとんど要らないような世界である。本という、誰もが何らかの形で触れるような媒体に関しても、そんな裏話が興味深く見えないはずはない。それはある種の禁じ手のようなものであるのかもしれないが、本がどうなってゆくのかを考えるためにも、切実な問題として、文化の担い手である私たちが共有していなければならない論題ともなるのである。
 本を愛する人は、ぜひお読み戴きたい。その道のプロでない限り、知らないことばかりだ。そして、目の前の一冊の本がどんなふうに愛されて、また時間を費やしてできあがってくるかを知り、また愛おしくなるのではないかと思う。
 かくいう私も反省である。図書館で借りて読むかぎり、この本の出版という事業に対して協力していることにはほとんどならない。まことに、口先と実行との距離は遠い……。




Takapan
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