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『偏差値29の私が東大に合格した超独学勉強法』

ホンとの本

『偏差値29の私が東大に合格した超独学勉強法』
杉山奈津子
角川SSC新書
\780+
2013.5.

 タイトルからすると目を惹くが、こうした成功談には一般的に警戒をしなければならない。確かにAをして成功をした人がいたのは事実であるとする。しかし、誰もがAをすれば成功するという論理は成り立たない。結果的にその人が成功したからその秘訣を教えてくれるというものであるが、基本的にはそう書けば売れるからである。Aをすれば自分も成功するんだという心理があるから、そこで買ってもらえるという算段がつくのである。冷静に考えてみれば、Aをしなかったために成功した人も、世の中にはたくさんいるはずなのである。だから、この手の成功談は、その通りにしようなどとは思わず、何かしら「これはいいかも」と思う部分を参考にして自分もやってみる、というふうに、多くの読者は考えているのではないかと思う。
 本書が古書店で格安でなかったら、もちろん私も買うつもりはなかった。また、高校生の子がいるという立場でなかったら、あるいは曲がりなりにも教育の仕事をしているのでなかったら、一枚のコインでも出すはずはなかったと思う。
 それに、買ったのは2020年。教育制度や入試の動向も変化しているから、ここに書かれてある情報を鵜呑みにするわけにはゆかない。
 それでも、やはり見ていくと面白い部分はあるものである。著者に特有のものがあるだろうし、個性もだが環境ということも考える必要がある。それでいて、書いている感じはかなり一般的なことであるので、勉強の効率ということを考える場合に、なるほどと思わせるところはあるものである。
 とにかく著者は東大に行きたい、と思った。誰もが無理だと思った。それは無理だろう。しかしやりたいことがあって、それへの執着というと失礼かもしれないが、熱意というものは半端なかった。すべてその目的のために何でも出来るという次元の生活と学習になることができ、本当に倒れるくらいに勉強をしていたのだろうと思う。
 徹底的に無駄を省く。浪人して東大に合格した著者のやり方は、「書き写す」いった、時間を使うわりには何も身につかない作業をやめるなど、非常に説得力のあるものも多い。しかも論理的ですらある。確かにご本人が試し、有効であたからこそこのように情報を提供していることになるのだが、決して著者特有の個人的なことではなく、もっと一般的な期待ができることであったのだろうと思われる。しかし予備校には反対しながらも、いろいろな予備校に行ってみるのもよしというように、若干揺れているように見えるところもある。それぞれに理由をつけるのだが、こうした理由は如何様にも付けることができるので、要するにまずどんな方法を選択するか、そこからすべてが始まるのではないか。ある勉強法が偶々著者にとって良かったのかもしれないが、経験的なことも時に強力に表に出してくるから、読者はすべてを鵜呑みにして採用するということもないだろう。むしろそれは危険ですらある。
 だから瑣末な方法についてこの通りにするかどうかも自由だし、方針に賛同できないというところがあってもいい。けれども全部が無駄だとは思えない。やはり、どこかハッとさせられるところがあれば、それで十分読んだ甲斐があったということにしてよいのではないだろうか。自分で自分を管理するのは非常に難しかったことだろう。そうなるとむしろ生活の仕方というレベルにもなって、四六時中全部に気を張っていなければならない。
 勉強の仕方は、時折眺めてみるようにすると、忘れかけていたこと、思いもよらない視点などが与えられる。時々刺激を受けるためにそばに置いておくというのも悪くないかもしれない。ただ、著者は非常に孤独の中で東大合格を目指して一途に頑張ってきたようで、それがまた心に影響を与えるひとつの契機となったのかもしれない、と案じた。著者独自の精神的環境などもあるから、なかなかこれらの方法は誰にでも真似のできることではないだろう。
 友だちとの関係や、兄弟あるいは両親との生活の風景も、本書には出て来ない。人間関係の中から助け合えるということもあるだろうし、それが大切ですらあることも、誰もが分かっているのだろう。しかし、著者はあくまでも孤高を守る。それもひとつの生き方ではあるだろう。
 本書には、要点はゴシック体で書かれており、拾い読みを後からすることも可能である。本等羽そこにマーカーを引いたり、附箋を貼ったりしていくというのがオーソドックスなのだろうが、そこは本書の愛情なのだろうか。とにこくここを見て思いだしてほしい、ということなのかもしれない。
 勉強法を一度ちゃんと考えてみるというのは大切なことだと著者は言う。ひとつメタ領域に入ったような事柄にもなるが、ひとり孤独で大学受験に挑むのならば、悪くないコーチであるのではないか。怠けないように互いに律する思いで、受験生は焦らず邁進していくということで頑張って戴きたい。




Takapan
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