本

『心の病気にかかる子どもたち』

ホンとの本

『心の病気にかかる子どもたち』
水野雅文
朝日新聞出版
\1300+
2022.1.

 精神疾患の予防と回復。そうサブタイトルが並んでいる。「子どもたち」とあるが、高校生あたりにひとつの焦点があるように見える。というのは、2022年4月から、新学習指導要領に基づいて、高校の保健体育の授業において、精神疾患の学びが始まるからだ。いや、以前にはそれがあったらしいが、近年盛り込まれていなかったという。しかし昨今の状況から、これを知ることの大切さが認識され、そのように改訂されたのだ。
 構成からいくと、まず精神疾患についての誤解を解くところから始まる。これは大事なことだ。私たちの先入観や思い込み、誤った情報により歪まされた上でのバイアスについて、更正していくことから始まるのは確かに必要だ。
 それから、精神疾患の学びの必要な点を、若い世代における問題があることから説き明かす。正に、精神疾患自体を判断するものが精神であるから、私たちの考えがその認識を曇らせているということがあるのである。
 心の病気を自覚し、またそれを改善していけるように、その精神的な背景やメカニズムも分かっている限り紹介するとともに、どのようにして実際に治療へと歩み始めるかについては、実際の現場、現実の状況というものが重要な鍵になる。子どもたちの生活を踏まえた、よいアドバイスが続く。
 そして、特に思春期に見られがちな問題を、精神疾患の実例としていくつか挙げる。この中に属するケースが確かに多いものと思われる。
 ここまでは、コンパクトながら、適切な説明がよくなされていると思う。逆に言えば、淡白であり、突っ込んだ議論はなされない。患者を前にして対するように、ソフトな語り方で、ただ現時点で分かっている知識を置いていくという感じである。そこそここの問題について知っている者には、比較的浅い、教科書的な叙述が多いようにも感じられるかもしれないし、この問題について殆ど知らないような読者にとっては、どこにも踏み込めないで説明を眺めているだけという場合もあるかもしれない。いったい自分はどれだろうか、という点については、俗的によくある、いくつ質問に当てはまるかのチェックの方が分かりやすいということがあるのだ。実は本書にも、幾度かそのチェックリストが設けられている。うまく活用すれば、誰にも取り組みが馴染みやすいものとなるかもしれない。他方、安易な判断は禁物であるから、ひとつのきっかけにして、専門医へと促すことが、本書の使命であるようにも思われる。
 最後の章は、Q&Aが13ほど並ぶ。私は、ここに魅力を感じた。当事者の立場から、また友だちがそうらしいという立場からも考えられるし、親の立場からのものが幾つかある。学校の教師としてすべきこと、できることについてもある。数はそれぞれ少ないが、的を射た項目であり、非常にシンプルながら、適切な対処が記されているように私は感じた。もちろん前半の基礎的な知識を踏まえた上でのことだが、このQ&Aについては、味わう価値が特にあるように思う。
 終わりに、「こころの健康教室 サニタ」というウェブサイトへの誘いがある。本書のウェブ版であり、展開する場所である。本書を手元に置きつつ、こちらでもう少し広い視野をもつようにするとよいかと思う。本書自体は、薄く広くという形で収まっているが、多くの入口を提供しているし、全体的にも優しく、温かな雰囲気を伝えている。
 さらに大学生レベルで、大学生活に特有の問題を扱う同類のものができたらと願う。大学という場所は、また違う独特の心情や不安が満ちる場所であり、時期である。そう求めつつ、この本やサイトの試みには拍手を贈りたいと思っている。




Takapan
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