本

『灯し続けることば』

ホンとの本

『灯し続けることば』
大村はま
小学館
\999
2004.7

 教師として教壇に立つ以上、この人の名前を知らない者はない。国語教育のカリスマであり、日本の教育の良心である。
 98歳にして今なお影響力が大きい教育者の、随所における短い言葉を集めている。実に読みやすく、心に響く。小さな本だが、読者への影響力は極めて大である。
 教師という世界は、特殊な世界である。教師である以上、いかに若くとも教室の主となって、「先生」となってしまう。閉鎖されたその社会を一人で切り盛りしていくので、慢心めいた考えに陥るなど、罠も多い。
 著者は、そのことも見据えた上で、なお「教師は、もっと尊敬されていい職業です」と断言する。そんな罠も乗り越えるのは当然であり、それだけ責任が大きいというのである。また、「熱心と愛情、それだけでやれることは、教育の世界にはないんです」と、頑張ったから、私なりにやったから、という甘えは捨てなければならない、と厳しいことを言う。企業ならそんな甘えは通用しないはずで、当然である。
 著者は、自分が幼いときに教師にしてもらったことを、実によく覚えている。しばしば語りに出てくるそのエピソードが、一つの理想の教師像ともなっていくのだが、それだけ子ども心に、教師の言葉やしたことが残るというのだから、大変だ。のほほんと生きてきた私のような子どもには、どれだけそうした教師の思いが刻みこまれているというのだろう。
「仏様が、ちょっと指で車に触れられました」
「興味を持つべきところに、子どもを連れて行くのが教師です」
「教師がいじったからといって、個性は壊れたりしません」
「子どもに向かって、「忙しい」は禁句です」
「最初に頭に浮かんだことばは、捨てます」
「祈りは、聞かれるものですか」
「裾を持ちなさい」
「少し上手になりたい、と考えて、するようにしています」
 見出しだけ見ても、意味が伝わらないものがあるだろう。けれども、見開き2頁ほどのコメントを読むことによって、すべてがしみじみと心に染みこんでいくのが分かる。曲がりなりにも何かを教えることをやっている私には、耳が痛かったり心が痛かったりしつつも、これらの言葉が生き生きと押し寄せてくるものである。
 ぜひ本文でそうした体験をして戴きたいという気持ちもあって、これらのコメントを私が偉そうにここで付け加えるのは、やめにしておくことにする。




Takapan
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