本

『図説・日本の軍事遺跡』

ホンとの本

『図説・日本の軍事遺跡』
飯田則夫
河出書房新社
\1680
2004.7

 定評のある、河出書房新社の「図説」シリーズ。私もそのうち何冊かを楽しませてもらっている。マニアックな趣味の世界であることもあるが、珍しいコレクションやその道の知識を、カラー写真で美しく紹介してある。
 今回は、日本の軍事遺跡。
 こうしたテーマを私が扱うとき、注意しなければならないことがある。もしかするとこの本を評することで、戦争を賛美したり戦争に協力するような発言をしてしまうことにならないだろうか、という点である。
 いったい、著者がどういう立場でこれだけの資料を提供してくれるのかも、完全には分からない。だが、著者の誠実さは、この点に一定の説明を試みている。戦争は絶対悪としながらも、軍の時代を全否定しても何も新しく生み出すことがないゆえに、史実を淡々と紹介する、というのである。やや微妙な言い回しではある。
 そこで、私もこの本には、戦争に対する価値観を求めたり期待したりすることなく、こういうことがあった、という事実を確認する役割を担ってもらうことにしようと思う。
 九州のことが気になるので開いてみると、四ヶ所がとりあげられていた。うち、大刀洗飛行場跡は、近くに何度か足を伸ばしたことがあり、話も少し聞いていた。歴史的に由緒ある土地ではあるが、中国大陸への基地として働きを始めてから、戦争への特殊な関わり方を厚くしていくことになる。
 もう一つ、志免の炭坑跡は、近くをしばしば通るものである。海軍省直営の炭坑として、海軍艦船に石炭を供給していたという歴史がよく分かった。これは今なお聳える櫓が、車を走らせる私たちの目に焼き付く、印象深いものである。
 山田弾薬庫など、福岡県には他にもこの本に載せてよいような場所が幾らもある。著者自身残念がっているように、近畿や四国の遺跡は集められていない。その意味でも、こうした遺跡は、私たちの近くにまだまだ沢山あるということであり、戦争を省みる機会はきっともっとたくさんあるということである。
 そうして、私たちの心の中に、戦争の痛みや空しさが、しっかりと刻みこまれている必要が、一番あるのだと覚えたい。その傷を直接背負う人が、まだ沢山生存している。




Takapan
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