[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

本

『なぜ日本人は「ごんぎつね」に惹かれるのか』

ホンとの本

『なぜ日本人は「ごんぎつね」に惹かれるのか』
鶴田清司
明拓出版
\1365
2005.11

 新美南吉の名作「ごんぎつね」。今、すべての小学四年生の国語の教科書に載っている。つまり、すべての小学生が、必ず読むことになるお話である。
 昔ながらの物語が、教材としての使命を次々と終えていく中で、「ごんぎつね」がなぜ残っているのか、いや、実は採用がどんどん増えてきているのでいるが、どうしてこうも愛されるのか。
 そんな話から、本は始まる。著者は、国語教育の専門家。国語教科書の編集にも携わっている。
 分析は、あらゆる角度から行われる。さほど厚い本ではないのに、その内容の厚さと熱さは、本当に奇跡的である。
 作家その人の検討から始まり、構成と文体、グリムやイソップなど他の童話との比較、日本人の滅びの美学との関係、今日の社会風俗的状況との類似や相違など、そしてさらに国語教材としての評価、これだけでは終わらない。まさに細かな「解釈」の数々を、幾多の研究者の成果と共に、著者自身の考え方を比較した形で述べるなど、実に細やかである。細やかであるために煩雑になることもなく、至って読みやすく、十分に楽しませてくれる。メタファーの解読までくると、もう驚くよりほかに言葉がない。
 最後に、親子で読書することの勧めとその具体的なあり方などについて、丁寧に記される。こう見てくると、この本の構成と記述に、実にムダがないことに気づく。大変に内容が濃いのである。これは見習わなければ、と思わされる。
 日本人に惹かれる理由というよりは、多分に新美南吉の理解に傾いているとは思うが、なぜ日本人に惹かれる云々としたかというと、おそらく、日本人がこの精神を今忘れかけているから、そして、この精神を大切にしてほしいから、ということなのだろう。
 私も、南吉的「やさしさ」の見直しは、大きな意味があると思う。元来理解し合えぬ者同士に過ぎない人間が、その垣根を越えて理解し合うことができるのかどうか――できないことが多いにしても――を、問い直しつつ、生きていきたいものだと思う。
 神と人との間の壁を、十字架で貫き破ったのが、イエスである。ごんの最期が与える余韻は、私たちの今の空気にも、響かせていきたいと思う。
 ところで、この本では触れられていなかった点についてだが、私はぜひ解説してほしかったことがある。「ごんぎつね」の物語の語り手である茂平とは誰かということである。茂平と兵十との関係はどうなのだろうか。また、そもそも根本的なところであるだろうが、茂平というおじいさんが伝えたにしては、どうしてごんの心の中が、そしてごんしか知らない情報が、物語として伝えられうるのだろうか。
 ご存知の方は、教えてください。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります