本

『笠原将弘の ごはんの友110』

ホンとの本

『笠原将弘の ごはんの友110』
笠原将弘
主婦と生活社
\1050
2011.2.

 反則だ、と思った。
 料理のレシピ本である。料理の写真も載っている。ただ、すべての写真が、ごはん茶碗一つなのである。そのごはんの山の頂上に、何かのっている。たとえば梅干しがのる、ということがあるだろう。辛子明太子ものせることがある。よく分かる。だが、その程度のことではない。この本は悉く、そのようなごはん茶碗にいったい何をのせるか、ということを提示してくれる本なのである。
 それも、だ。かつを酒盗だとか、市販の温泉卵、桃屋のザーサイやメンマなどを平気で使うのである。また、こんな組み合わせでのせてもいいのか、と驚くものも多々あるし、作るのに大した手間はかからないものが多い。
 これで、ごはんが進む、となると、まことに「やられた」という印象をもたざるをえない。
 実は、本の後半は、必ずしもごはんに盛った様子だとは限らなくなる。和食の一品が公開されている。小皿に盛った一品料理である。ちょっと凝った作り方や手間がかかるものがあり、作り方もていねいに写真付きで掲載されている。ただ、これらも、要するにごはんが進む、という目的であることは確かのようである。
 ただ、当然読者は考えるだろうと思われるが、これらは酒のつまみとしてももってこいである。酒は米から作られるが、まさにごはんの友は、酒の友でもありうるのだ。
 それはともかく、蘊蓄や必要外の知識へは心を走らせず、ひたすらそのメニューの作り方に徹した一冊となっており、食の実践を考えるとなると、全く遊びのない、ストイックな本であるとも言えるだろう。
 最後に、米の研ぎ方が写真入りで説明されている。最後の最後にきて、この一品のほうでなく、ごはんそのものに光を当てる、憎い演出である。
 和食の修行をし、自ら店を開き、その名を「賛否両論」とした。著者のプロフィールが書いてある。新しいメニューを開発するという意気込みがこの本には溢れている。料理には賛否両論伴うものだが、逆に言えば、両論出て来ない料理というのも味気ないのではないだろうか。人のこだわりや強い愛着があればこその賛成だろうし、主義として許せないとかけしからんとかいう料理世界観があればこその反対だろう。著者の店は、予約もうまくとれぬほどの人気の店になっているという。
 そういう人がレシピを紹介している。気取らず、また特別なテクニックが必要であるわけでもない。それでいて、考えなかった取り合わせや美味しさが教えてもらえるとあれば、この本は実に有益で、安い。左党でなくても、純粋にごはんの好きな方、好きになりたい方は、一見の価値があることだろう。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります