本

『これってホントに科学?』

ホンとの本

『これってホントに科学?』
安斎育郎編著
かもがわ出版
\1680
2010.3.

 疑似科学などと言って、いかにも科学的根拠があるようなふうに現れてくる知識。たいていは、商業的な手段として私たちの前に現れる。差し障りがあるかもしれないので、ここで具体的には言わないことにする。また、そうした利益には関わらない場合でも、この本の冒頭に掲げられているように、血液型による占いから差別問題など、金銭的には現れない被害が多々起こってくる、その点に眼差しが向けられる。
 そう。この本は、小学校高学年あたりをターゲットにしていると見てよい。ある程度科学的な見方ができるようになっているあたりの年代、素直で信じやすい年代である。そこが、騙されやすいかもしれないし、騙されることによる害が大きいと思われるのである。だから、まず血液型による判断がいかにおかしいか、というところから、この本は始まったのであろう。そのために、項目を二つ要している。
 この後、星占いなどの占い、マイナスイオン、健康食品、虫の知らせやエスパー、念力やスプーン曲げなど、子どもたちが興味をもちそうな分野をひとつひとつ取り上げて、それが科学的に根拠がないことを次々と明らかにする。
 ただ単に、科学的じゃないのだ、と権威的に怒鳴るわけではない。その事柄についての歴史的な経緯を説明したり、数字でその現象が奇跡でも何でもないことを証明したりする。「虫の知らせ」は、確率的に、この日本中では数十人単位で一日感じる出来事が起こりうることを計算して見せる。小学生には分かりにくい計算であるかもしれないが、中学生なら十分納得できる説明方法である。超能力にしても、どうすれば封筒の中身を言い当てることができるか、マジックのトリックのタネも見せてしまっている。もちろん、すべてのトリックというわけにはゆかないが、科学的にこうした能力が証明されたためしがないことを付け加えて、いずれも何か理由あっての現象であることを示す。
 編者は、有名な教授で、かつてオウム真理教の空中浮遊についても呆れた顔でインチキであると主張し、他の様々な霊能力者については常々警告を与えてきた。反オカルトの先鋒である。
 ここには、様々な知恵がある。振り仮名がついていることから、小学生向けであると先に挙げたが、これは小学生にも理解してもらいたいという願いからであろう。大人こそ、読むべきである。依然として、血液型がどうだなどと笑顔で話題に出している大人たち、星占いの雑誌やテレビに熱中している大人たちが、その無駄なことのみならず、罪なことを知らなければならない。
 健康食品に多大な金を費やしている愚かさ、それこそが病気に効くのだと信じ込んでしまった、宗教よりも明らかに騙されていることに気づかない哀れさ、そういう大人たちが、こうした分かりやすい本に触れて、科学的に明らかにおかしいことを、知らなければならないだろう。
 ただし、宗教についても、おそらく著者は少し煙たい顔をするのではないかと思われるが、直接的に宗教を批判しているというふうでもない。宗教が、これは科学的に事実だ、のような説明を始めたときに、怪しさを指摘することはあるのだが、科学とは別の領域で信仰して希望をもつことについては、ひとつの宗教たる価値を認めてくれているのではないか、と思われる。でないと、これは疑似科学の批判なのであるから、分野違いということになるであろう。宗教であるのに、「科学」と称するものは、当然この本の批判対象ではあるだろうけれど。




Takapan
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