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『ジェスチャー・ボディランゲージの英語表現』

ホンとの本

『ジェスチャー・ボディランゲージの英語表現』
ランサムはな
クロスメディア・ランゲージ
\1780+
2020.10.

 ユニークな本である。出版社の「クロスメディア・ランゲージ」というところもなかなかイカしていて、本書の音声が無料でダウンロードできるようにしている。「外国語を学ぶと、こんなに楽しい!」という言葉と共に、このメーカーは活動しているらしい。
 英文を覚え、発音を練習すればコミュニケーションがとれるのか。残念だが違う。文法的に正しいかどうか、それは言語だけを問題とすれば大切なのだろうが、対話できるか、情報をやりとりできるか、何より人間と人間との関係ができるかどうか、文法などによらない部分のほうが大きいはずである。ひとは相手の印象を、離した言葉の文法的正さによりもつだろうか。表情、声色、話し方などの要素が大きいのではないだろうか。
 そういうわけで、英会話を学ぶにしても、ここにあるゼスチャーやボディランゲージは実に大きな要素であると言わざるをえない。これがなかなか学校英語にはない。しかしネイティブ一人がいれば、つきあうことで自然と分かっていくだろう。
 本書は英語表現については、それが山ほど載っているものの、結局付随的なものに過ぎないという気がしてくる。いや、それらは概ね知っているような優れた英語能力のある人こそ、実は知らねばならないというようなことがどっさりここにある。
 ジェスチャーについて、まず自信と姿勢とアイコンタクトが必要だという説明を施してから、テーマ毎にまとめられていく。まずは、やってはいけないこと。子どもの頭を撫でてはいけないなどといった、少しずつ知られるようになった外国での常識である。アメリカ、イギリスを中心とするが、他国における情報にも触れられることがある。それから「いいえ」ひとつにしても、手の動かし方が違うのだということも。これはコミュニケーションにとって重大事項であるはずなのに、英語を教える本にはこんなこと、普通書かれていない。手招きも私は知っていたが、つい日本式の動かし方を体がしてしまいそうである。自分を指すのに鼻を指すことはないのだともいう。手話で私たちがするように、自分の胸を指すのである。
 男女でゼスチャーが異なることもあるので一つひとつ細かく触れていく。また、海外ドラマが実にこうした表現の宝庫だというお薦めもあるのだが、その中で見られる様々なケースを紹介してくる。これらは、無料ダウンロードの動画や音声で確認していくと楽しい。
 日本ではNGなことも、外国ではOKというものもある。だが、それも程度による。アメリカでの暮らしの多い著者は、自分が見聞したことも大切な情報であると理解し、読者に、実はね、というようなことも教えてくれる。年齢層が上の人がこうする、といったものは、普通の英語教育においては全く触れられることがないと言ってよい。手話でも、若い層と年配とではずいぶん違うというので、英語でもやはりそうしたことがあるのだろうと思われる。従って、ビジネスの場面ではするべきでないことや、逆にしてもよいことではあるが、たぶんこの方がよいだろう、というような微妙なことも教えてくれるのが大変親切でありがたい。というより、こうしてコミュニケーションというものは成り立つものなのだという、ごく当たり前のことを、しみじみと感じさせてくれる本なのである。
 写真のときのピースサインの不可思議も、個人的には知っていたし、謝ることの意味や声、態度なども実際の場面に適用しながら実にこと細かく教えてくれるし、コメントしてくれる。
 そう、本書には、およそ他の本では見られないほどに、多くの「コラム」が用意されている。英語表現についても多いが、海外での現実の経験談も多数あり、本当に面白く、役に立つ。文化というものを深く感じることができるというものだ。このコラムを読んだだけであっても、本書のために支払った金額は取り戻せると思う。お分かりだと思うが、これは最大級の誉め言葉である。事実、ネット業者の評を見ても、誰もが絶賛している。ありそうでなかったものではないだろうか。それというのも、動画や音声が提供できるこの時代になったからこそ、さらに本書の活躍する場が拡がったというふうには言えないだろうか。
 曲がりなりにも英語を教えることがある、英語駄目人間の私だが、こうして本書を読み終えると、案外その文化の常識めいたものは心得ていることが多いようだということが分かる、個人的にはうれしさを覚えるものだった。手話で培ったコミュニケーションに対する考え方は、英語でも同じように活かせる考え方なのだということが分かったような気がした。




Takapan
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