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『現代思想2016年3月臨時増刊号imago総特集・猫 2016vol.44-4』

ホンとの本

『現代思想2016年3月臨時増刊号imago総特集・猫 2016vol.44-4』
青土社
\1200+
2016.2.

 あまり可愛いという見かけではない猫が、不細工な招き猫の横に並んでいる写真。可愛さ故に手に取ってもらおうという猫の本とは一線を画している。それもそのはず、天下の「現代思想」の臨時増刊号なのだ。
 対談は角田光代と西加奈子。この二人、「ユリイカ」の同様の特集のときにも対談していた。猫好きとくればこの二人くらいしか乗ってこないのだろうか。文学者同士の熱の入った対談は、猫好きからすれば、傍から聞くのは何度聞いても面白いに違いない。
 本の後半に置かれたもうひとつの対談は、保坂和志と小沢さかえ。「チャーちゃん」という絵本の作者たちだ。まず絵に惹かれるが、冒頭の言葉を思いついて後、構想十年でできたという作者の心に、じんとくる。死んだ猫のことが、十年間ぐるぐる頭の中を回っていたのだろう。死んだ猫は、ただ死んでいるのではない、という姿が見えてくる。
 こんな調子で一つひとつ紹介していっては、文章が終わらないだろう。「猫を者をっとよく知るためのQ&A」「人間が猫と暮らすということ」「猫は自由に空間を駆けめぐる」「猫の名前、猫の永遠」「欠如ゆえの愛」「処方箋は「イヌ、ネコ、ねこあつめ」」「猫が日常にもぐりこみ……」「心理療法における猫」「猫が導く闇の世界 村上春樹の「猫の町」」「一つの空間論としての命」「バイオレンス・スコ」「猫の魔力」「窓いっぱいの猫の顔」「猫の人化/人の猫化」「NARACATS」という具合である。
 その原稿に関係する猫をはじめ、猫の写真もふんだんに出てくる。特別なモデル猫ではないが、飼い主の愛情をたっぷり注がれたような猫たち。いいものだ。  ユリイカのほうは、文学的な色彩が濃かった。だから、猫の文学やマンガ、絵本などの紹介がたっぷりとあった。だがこちらは現代思想。どこか思想性に結びつく論じ方や紹介の仕方がしてあって、趣の違いを感じた。
 特に個人的には、村上春樹の作品に猫が出てくるあたりに肯きながら楽しめた。もちろん村上春樹が大の猫好きであることは周知の通りである。作品に猫がよく出てくることも分かっているし、自伝的な作品に「猫を棄てる」という題も付けている。しかし、趣味や好みで出していると思っていたわけではないにしても、その猫の登場の仕方や去り方に、重要な意味がこめられているという指摘は、どきりとさせられた。ただ好みで登場させているわけではないのだ。物語の重要なモチーフや意味づけのために、猫たちは重要な役を与えられたいたのである。
 先にも挙げたが、保坂和志の話には、ぐいぐいと引き込まれていったため、図書館に行って慌ててこの人の本を借りてきたほどである。
 現代思想とくれば、特集が大部分であるにしても、おわりがけに連載ものがいくつか並んでいるのが普通である。だがここは臨時増刊号である。最後の最後まで、猫一色に塗りつぶされていた。猫好きにはたまらない。学術的な論文を集めたわけではないが、猫に対する愛情たっぷりの執筆者たちが、それぞれの視座から見える猫についての風景と、その背後を見破ったその体験を、たっぷりと聞かせてくれる、ぞくぞくする本だった。最近呼んだ「ふわふわ」や「ねこはい」という本のことも出てきて、やったね、という気持ちもした。私もまんざらではないものらしい。それから、香山リカさんの文章に出てきた「ねこあつめ」というアプリ、遅ればせながら私もインストールしてみた。毎日ねこが庭先にやってくる。なかなか楽しませてもらっている日々である。




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